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“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回
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印刷2012/02/10 00:01

連載

“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回

「Age of Empires」を遊び込んだあの頃


川上氏:
 ちょっと話は変わりますけど,考えてみたら今日は本編のゲームの話をしてませんよね。

4Gamer:
 まぁ,もはや何が本編なのかって思ってる読者も多そうですけど。

川上氏:
 前ってどんな内容でしたっけ?

4Gamer:
 えーと,「junk.test」から始まって,アスキーネットの「ギャラクティック・フリートレーダー」(以下,GTF)あたりまでの話でしたね。

川上氏:
 じゃあ今回は,ニフティ時代の話から入って,インターネット黎明期のオンラインゲームの話でもしましょう。

4Gamer:
 ニフティサーブ時代のオンラインゲームというと,「Air Warrior」とか「MegaWars」とかあたりですか?

※ニフティサーブ:1987年から2006年まで運営されていたパソコン通信サービス。当時,日本最大の会員数を誇っていた。

川上氏:
 そうそう,まさにその辺です。実は,GTFをひとしきり遊んだ後に,僕はニフティで「MegaWars」を遊んでいたんですよね。これも面白いゲームで結構ハマっていたんですけど,北米のCompuServeでは「MegaWars 3」まで出ているのに,日本では「1」しか出ていなかったんです。

4Gamer:
 まぁ,言ってもマイナーなゲームでしたしねぇ……

川上氏:
 だから,僕は日本からCompuServeに繋いでゲームを遊ぼうとしたんだけど,当時は通信費がべらぼうに高かったんですよね。すぐに何万円,何十万円っていってしまう。若造のサラリーマンに払える金額ではなかったんです。

4Gamer:
 パソコン通信自体が,まだまだ一部のマニアのものでしたしね。

川上氏:
 でも,僕はどうしても「MegaWars 3」が遊びたかった。だから,当時務めていた会社の上司(社長)に,「オンラインゲームのビジネスをやるべきです!」とかって提案して。実際,ちょうどパソコン通信サービスのコンテンツとしてゲームが注目を集め始めていたタイミングだったし,北米で作られていたゲームを日本にもってくるビジネスをやれば儲かるんじゃないか,みたいな。そのリサーチと称して,会社の金でオンラインゲームを遊びまくれるんじゃないかと考えたんです。

4Gamer:
 その目論見はうまくいったんですか?

川上氏:
 うん。確か,会社に月20円万くらいは払わせていました(笑)。当時,僕は会社の中でちょっとしたプロジェクトを成功させていて,そのせいで発言力が強かったんです。だから,その間に自分のやりたいことを通してやろうと思って。それで始めたのがオンラインゲームのプロジェクトだったんですよ。

4Gamer:
 やってることはめちゃくちゃだけど,気持ちは分かります(笑)。

川上氏:
 で,僕の希望はめでたく叶えられて,会社でゲームを遊びまくるという幸せな日々がしばらく続いていたわけですけど,そうこうしているうちに「これを日本でちゃんと展開したらいけるんじゃないか」というサービスを見つけて。それが北米で展開されていた「Dwango」というオンラインゲームサービスだったんです。それに,対応する人気ゲームがどんどん出ていけば,サービスを使うユーザーも増えていくモデルで,これはうまくいったら凄いんじゃないかって思えたんですよね。

※Dwango:1990年代中期に北米でリリースされた,対戦ゲームの通信部分だけを請け負うサービス。名前の由来は「Dial-up Wide Area Network Gaming Operation」の頭文字をとったもの。当時,「DOOM」や「Warcraft」といったPCゲームは,通信機能を備えてはいたのだが,対戦相手などは自分で探さなければならなかった。Dwangoは,そこにコミュニティとテクノロジーを提供するサービスとして登場した。

4Gamer:
 ゲームポータルの走りの一つみたいなもんですよね。自社でゲームを抱えないので,今あるようなサービス形態とは全然違いますが。当時は,通信プレイの快適さとか対応ゲームの数なんかで,同種のサービスが競い合っていましたよね。

川上氏:
 そうそう。で,これは結構汎用的なサービスだったから,日本でも普及する余地があると思ったんです。そして何より,このサービスが日本で流行っていけば,僕自身がより快適にオンラインゲームを満喫できると思ったんです。対戦相手を探すのさえ,昔は一苦労だったわけだけど,日本にこれがあれば,そうした苦労もなくなるわけじゃないですか。

4Gamer:
 まーた,そういう動機ですか。

川上氏:
 まあただ,Dwangoのサーバを日本に持ってくれば,僕自身は楽しめる自信があったし,僕以外にも喜ぶ人もいるだろうという確信があった一方で,単体のビジネスとして考えると,どうしても採算が合わないなとも思っていました。

4Gamer:
 当時のネットゲームなんて,かなり尖った嗜好品でしたねぇ……。

川上氏:
 だから,「モデムのおまけ」として販促品にすることにしたんですよね。モデムにおまけを大量につけるという戦法は,日本ではたぶん僕が最初に大成功したと思うのですが,すぐに他社さんも真似てきて対応が必要になったんです。その意味でも「Dwangoは差別化にちょうどいいや」と思って。販促品までは真似できても,ゲームサーバーやサービスまでは無理だろうと。これで,僕も会社もユーザーも,みんなハッピーになれると思ったわけ(笑)。

4Gamer:
 あー,そう言われると,僕が「Warcraft 2」に出会ったのは,そのあたりのタイミング(1995年前後)だったかもしれません。思い起こせば,僕もゲームに釣られてそういうモデムを買ったような気がしてきました。

川上氏:
 「DOOM」は確実に付いてたはずだけど,「Warcraft 2」はどうだったっけ。まぁただ,あの時に日本の代理店が付いていたゲームは結構な割合でおまけに入っていたはずですよ。僕は昔からそういうおまけ作戦が大好きだったし,これは僕の趣味と実益を兼ねた夢のプロジェクトだったんです(笑)。
 で,僕自身はというと,FPSとかはすぐに殺されて面白くなかったから,「Warcraft」とか「Command & Conquer」みたいなゲームばっかり遊んでました。

4Gamer:
 FPSとRTSが当時の二大人気ジャンルでしたよね。

「Age of Empires」とは,古代文明同士の戦いをテーマにしたリアルタイムシミュレーションゲーム。海外産のPCゲームとしては異例となる,国内売り上げ10万本以上を記録した
画像集#003のサムネイル/“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回
川上氏:
 うん。で,次第にパソコン通信からインターネットの方へと時代の趨勢が移っていったわけだけど,そのあたりで「Diablo」や「Age of Empires」(以下,AoE)が出てきた。

4Gamer:
 AoEは,CD1枚で3人まで同時に遊べるという仕様が大きな特徴で。学校や会社とかで「友達を誘って一緒に遊べる」という,クチコミで流行っていった珍しいタイプのPCゲームでしたよね。実際,大学単位とかでチームがあったりしました。

川上氏:
 AoEは相当流行ったよね。これは面白い!って僕もめちゃくちゃ遊んだもの。

4Gamer:
 僕も“人生に影響出るレベル”で遊びましたけどね……。

川上氏:
 ただ,AoEは確かに面白かったんですけど,やっぱりユニットの上限が50から200に引き上げられてからは,僕的にはつまらなくなっちゃったんです。

4Gamer:
 ああ。確かにユニット上限が増えてからは,戦術の駆け引きというよりも,反射神経勝負みたいな流れにはなりましたよね。戦い方も,とにかく“手数”(操作量)が多い方が強いというスタイルに変わっていきましたし。

川上氏:
 そうそう。それで戦術ゲームというよりは,アクションゲームっぽいというか,スポーツみたいな感じになっちゃって。AoEが流行った初期の頃は,僕も結構強かったという自負があるんですけど,だんだん勝てなくなって,飽きちゃいました(笑)。

4Gamer:
 うーん。初期っていうと,大和(※)の騎兵ラッシュとかが流行っていた頃でしたっけ。ユニットが50までの時は,少ないユニットを細かく動かす戦い方が流行っていて,投石機みたいなユニットはあまり強くなかったのは覚えています。

川上氏:
 もう15〜6年前ですからねぇ……どうでしたっけ。ただ,漢(※)でバリスタを大量に使う戦術が流行った時期があったんだけど,あれを最初に始めたのはきっと僕,というのを実はずっと言いたかった!

4Gamer:
 そんな昔の話を……(苦笑)。

川上氏:
 今回の話では,僕的にはここはかなり大事なんで,絶対に入れておいてほしい。「あの戦術の創始者は僕である……たぶん」みたいな感じで(笑)。

※大和:AoEで登場する勢力で,騎兵ユニットに能力がボーナスがある
※漢:AoEで登場する勢力。町人のコストが低いので,結果として素早く都市を発展させることができた



「納得感」をどこにもっていくか


川上氏:
 あの頃は楽しかったよね。でも,実はちょうどその時期に,務めていた会社(ソフトウェアジャパン)が潰れちゃったんだよね。Dwangoもサービス中止になっちゃって。

4Gamer:
 あらら。

川上氏:
 だけどその時も,会社の残務整理のために一人で会社に残って,誰もいないオフィスでやっぱりゲームを遊んでいました。というのも,会社には,当時は珍しかった常時接続256kbpsの専用線(※)が引いてあって,この快適な環境でゲームがしたかったんですよね。

※当時,家庭用の回線としては,64kbpsや128kbpsのISDNが最速だった

4Gamer:
 ああ,あの頃は速い回線に憧れがありましたよね。回線の強弱が露骨に強さに影響するゲームもありましたし。

川上氏:
 「Quake」なんかはそうだったよね。サーバーとの通信のレイテンシ(遅延)が少ないほど有利だったし。みんながISDNやアナログモデムで,レイテンシが100msだ200msだで「速い!」とか言ってる横で,僕だけ50ms以下!みたいな感じで。当時のネットゲーマーの中では,かなり最強な通信環境で遊んでたと思う。

4Gamer:
 少しでも通信を速くするために,わざわざ基地局に近いところに引っ越す奴とかがいた時代ですよねぇ……。

川上氏:
 まぁただ,AoEは通信を同期させるタイプのネットゲームだったから,僕一人の回線が速くてもあまり意味はなかったんですけどね。でもネットゲームは,同期の取り方一つとっても,いろいろ考え方があって面白いですよね。

4Gamer:
 ああ,実は結構,そこにゲームデザインの思想が見え隠れしますよね。攻撃判定をどこで処理するかによって,全然ゲームの性質が変わってきますし。

川上氏:
 そうそう,AoEはpeer-to-peer方式の中でも,全部のPCの入力タイミングを完全に同期させるタイプだったし,Diabloなんかは,基本的にはpeer-to-peer方式なんだけど,当たり判定は,攻撃されたPC側が「攻撃があたってダメージ受けました」と自己申告する方式だった。

※peer-to-peer:端末間で通信を行う際のアーキテクチャの一つ。互いのPCが対等(ピア)な関係でデータを送受信するのが特徴で,相対する方式としては,クライアント-サーバ方式がある

4Gamer:
 そんな仕様でしたっけ?

画像集#005のサムネイル/“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回
川上氏:
 うん。だからDiabloの場合は,こっちから見て攻撃が当たっていても,向こう側から見て当たっていなければ,「当たっていない」という処理になっていたんですよね。攻撃しますという申告と,当たりましたという申告の重申告制というか。そういう処理をしていたんです。だから,こっちから見ると全然離れているのに,遠くで相手が死んだりしていたのはそのせいで。

4Gamer:
 Diabloでそういう処理をする意図ってなんなんですかね。

川上氏:
 たぶんですけど,“納得感”をどこにもってくるかっていう話だと思う。

4Gamer:
 納得感,ですか。

川上氏:
 要するに,「当たっているように見えるのに当たってない理不尽さ」と,「当たっているように見えないのに当たっているという理不尽さ」の,どちらが“納得”してもらえるのかという話なんじゃないかと。
 敵が遠くにいるのに,いきなりダメージを食らって死んだら凄い不愉快じゃないですか。攻撃側の申告で判定を処理をすると,そういう現象が起きちゃうわけですよ。

4Gamer:
 あ,そういうことか。

川上氏:
 ダメージを受ける側の申告で判定を処理すれば,少なくともそちらの理不尽さはなくなりますよね。この仕様だと,自分の画面で攻撃が当たっているように見えるのにスカっている(当たったかどうかの判定は向こう次第)というデメリットがあるわけだけど,当時のDiabloのゲームデザイナーは,そこを割り切ったんだと思います。

4Gamer:
 理不尽に攻撃が当たらないことはあっても,理不尽に攻撃を食らうことはないってゲームデザインですね。

川上氏:
 外から仕様を推し量っているだけなので,あくまで推測ですけどね。
 逆にpeer-to-peer型のカーレースゲームなんかの場合だと,あれは運転技術を競うゲームなので,車同士の当たり判定は,操縦する側がやっていたゲームが多かったと思います。だから,操縦する側が避けたり当てたりするのに理不尽さはない。でもぶつけられた側からすると,接触してないのに吹き飛ばされたりする理不尽さがあったんですね。

4Gamer:
 よく考えたら,ドワンゴは元々オンラインゲームの開発を請け負っていた会社だから,川上さんはそのあたりにも詳しいんですね。

川上氏:
 はい。この辺りのネットワークの設計については,結構真面目に勉強しましたからね。……そういえば,最近はRTSってまだ流行っているんですか?

4Gamer:
 ジャンルという意味でいうと,「StarCraft 2」や「Warcraft III」,そしてちょっと亜流で「League of Legends」という1プレイヤー=1ユニットみたいなゲームがありますけど,それ以外は,ほとんど絶滅してしまいましたね。

川上氏:
 でも,PCゲームという市場自体はまだちゃんと残ってますよね?

4Gamer:
 PCゲーム市場は,いわゆる「オンラインゲーム」「ブラウザゲーム」を除けば,だいぶ下火になっているというのが実情ですが,それでも根強く市場は残っていますね。ただ,ダウンロード販売周りは,「Steam」が相当な勢いで伸びているという状況です。

川上氏:
 ほんの少し前までは,ダウンロード販売系のサービスがいくつか乱立していたじゃないですか。

4Gamer:
 まだまだ乱立はしていますが,Steamが圧倒的な独走状態に入っているという感じですね。いまやSteamは,アカウントベースで4000万超。売り上げ規模も,今年度は10億ドル(約760億円)を超えると言われていて。確固たる市場を築き上げつつあります。

川上氏:
 それは興味深いなぁ。


カッコイイ生き方


4Gamer:
 しかし,以前からずっと思っていたんですけど,川上さんは仕事への取り組み方というか,モチベーションの作り方がとてもユニークですよね。

川上氏:
 え,そうですか?

4Gamer:
 なんか,自分にとっていかに仕事を面白くしてやるか,みたいなノリがあるというのか。

川上氏:
 ああ,でもそういう話で言うなら,「自分にとっての物語」がいかに大事か,ということなんじゃないですか?

4Gamer:
 物語?

川上氏:
 はい。なんと言えばいいのか……。これは,あんまり他人に話したことはないんですけど,僕は,仕事をするときに必ず“物語を作る”んです。で,その物語が「カッコイイ物語」になるような,ビジネスプランを考えるんです。

4Gamer:
 どういう意味でしょう。

川上氏:
 例えばですけど,この仕事は業界や社会にとってどういう意味/役割を持つのか,あるいは歴史的に見てどういう意義が見出せるのか,みたいなことですね。他の方も,きっと似たようなことを考えるとは思うんですけれど。

4Gamer:
 んー……。それは例えば,ソフトバンクの孫正義さんの言う「志」みたいなものですか?

川上氏:
 いや,孫さんが言っているのは,僕の言う“物語”とは全然違います。孫さん,あるいはGREEの田中さんあたりもそうですけど,彼らは壮大な目標をぶち上げて,世界を相手にとにかくでかいことをするんだ,みたいな話じゃないですか。

4Gamer:
 でも,川上さんの言う物語というのも,経営者,あるいは仕事人として,ドワンゴの社会的役割みたいなものを考えるというお話なんですよね?

川上氏:
 それはそうなんですけど……。んー……(しばしの沈黙の後),要するに「カッコイイ生き方」っていうのがあって,それに対する考え方の違いなのかもしれませんね。

4Gamer:
 カッコイイ生き方,ですか。

川上氏:
 うん。カッコイイ生き方ってなんだろうって,僕は昔からよく考えるんですけど,例えば,カッコイイことをカッコつけてやってばかりだと,それって実はもの凄くカッコ悪かったりするじゃないですか。一方で,カッコ悪いことを地道に続けていくと,それがカッコイイということになったりもしますよね。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 要はカッコイイって一言で言っても,それって一体何なのかが難しいわけです。でもそんななかで,本当にカッコイイかどうかを見極めるポイントがあるとすれば,それは“覚悟”なんじゃないかと常々思っていて。何か犠牲を払う覚悟がない行動というのは,基本的には,カッコイイ行動にはなり得ないと思うんですよね。

4Gamer:
 なるほど。

川上氏:
 だから僕は,いざというときに犠牲を払えるかであったり,なんらかの“覚悟”があるかどうかというのが,カッコよさの尺度だと思ってるんです。

4Gamer:
 いや,言わんとするところは分かります。

川上氏:
 だから,何かでかいことをするというのも,もちろん一つのカッコ良さなのかもしれないけれど,僕自身がどういう生き方が理想なんだろうと考えると,なんかそういう方向(孫正義さんのような)とはちょっと違うなって感じていて。
 それに,カッコつける場所も重要だと思うんですよね。安全な場所でカッコつけるばかりだと,やっぱり格好悪いじゃないですか。でも,自分の筋を通そうとしたとき,それが“危険な場所”であることって沢山ある。物事の大小は置くとしても,そこで筋を通すことが大きなリスクを伴う局面って必ずありますよね。

4Gamer:
 はい。

川上氏:
 僕としては,そういう時にこそ“カッコつけられる”人間になりたい。失敗すると,きっと周りからは「バカだな」と思われると思うんだけど,僕の理想とする生き方はそういう方向だなぁと最近考えていて。

4Gamer:
 そういう行動に出るとき,なんらかの“覚悟”が必要になるということですね。

川上氏:
 うん。でもそれは,きっと誰でも自然にやっていることだと思うんです。誰だって自分自身を納得させるために,なんらかの“物語”が必要になるんだと思うんですよ。このためだったらしようが無いであるとか,あれのためだったら踏ん張れるなとか。だってそういうのがないと,どんどんブレていっちゃいますよね。

4Gamer:
 まぁ「家族のため」であるとかも,そういったものの一つってことですよね。ちなみにその流れで言うと,ニコニコ動画の存在意義という部分を,川上さんはどう考えているんですか?

画像集#016のサムネイル/“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回
川上氏:
 正直な話をすると,実はほんの2年くらい前まで,ニコニコ動画なんて「もう売っちゃおうかな」くらいに考えていたんですよね。

4Gamer:
 え?

川上氏:
 なんというか,これが世の中にとって良いサービスかどうかの確信が,以前は持ててなかったんですよ。自分でいろいろ取り組みながらも,「こんなサービスは要らないんじゃないか」「なくなった方が日本のためなんじゃないか」って疑問が,ずっと僕の頭から離れなかったんです。

4Gamer:
 でもニコニコ動画を始める時も,川上さんなりに「カッコいい物語」を考えて始めたわけですよね。

川上氏:
 はい。これは以前もお話ししたと思いますが,ニコニコ動画を作る時は,「Googleのようにコンピュータ中心ではなく,人間を中心にしたサービスを作ろう」というテーマを掲げました。

4Gamer:
 今の世の中の流れ(ロジックが支配していく)に一矢報いる,という奴ですね。

川上氏:
 だけど,ニコニコ動画が成長していく過程で,やっぱりね。「ニコニコ動画は本当にいいものだろうか」という部分で悩んでしまったんです。

4Gamer:
 悩んだ,というのは具体的にどのあたりについてですか?

川上氏:
 ぼくが悩んだのは,主に二つの点についてです。一つは,ニコニコ動画でユーザーが作っている無料のコンテンツが日本のコンテンツ産業を破壊するのではないか?という疑問。もう一つは,ニコニコ動画にハマりすぎた人間がたくさん生まれることで,日本という国の活力を損なっているんじゃないか,ということ。この二つの懸念についてどうにも良い答えを見出せなくて,「やっぱり止めた方がいいのではないか」と思い始めてしまったんですね。

4Gamer:
 なるほど。まぁそういった問題は今なお指摘され続けている部分ですし,難しいところですよね。

川上氏:
 でも,「ニコニコ大会議」みたいなイベントをやってみたりして,直接ユーザーさんの熱量というか,活気というか,彼らがどれだけニコニコ動画を愛しているのかだとか,そういうものに直で触れた時,「あ,これは良いサービスなんだ」と実感できたんです。「これはきっと日本のために凄く重要なサービスになり得る」と,その時に初めて確信が持てたんですよね。

4Gamer:
 ニコニコ動画が「日本のために凄く重要なサービスになり得る」とは,具体的にどういうことですか。

川上氏:
 日本のネット文化というか,なかでもニコニコ動画って典型だと思うんですけど,やっぱり世界の中でも,日本のネット空間はかなり特殊な部類だと思うんですよ。他の国にはないエネルギーを持っているわけです。
 で,他の国にないエネルギーの源はなんなのかって言ったら,それって要するに「教育水準の高い暇人が多い」「ネットに繋げられる暇人が多い」って部分だと思うんですよね。それが,日本という高度の発達した社会の“隠された資産”の一つだと思うんです。

4Gamer:
 ああ,以前にもおっしゃっていましたね。

川上氏:
 でも現状では,そうした人達の活動はあんまり世の中で活かされていないし,まして金銭を生むような状態にはなっていませんよね。日本のGDPにもまったく貢献していないわけです。

4Gamer:
 まぁそうですね。

川上氏:
 だけど,ニコニコ動画が仮にもっと成功して,世界でも有数のネットワークサービスとして成長していけるのなら,それって“これまではGDPに貢献していなかった力”を日本の役に立てられるってことじゃないですか。ただネットで遊んでいる人達のパワーや熱量が,日本のGDPなり文化輸出に貢献できる……。そんな装置にニコニコ動画がなり得る/なりつつあるってことじゃないですか。

4Gamer:
 まぁ「初音ミク」とかが広がっていく過程にしたって,SFの世界では「バーチャルアイドル」って発想自体はずっとあったわけだけど,「なるほど,こういう形で現実のものになるのか」みたいな驚きはあったんですよね。

川上氏:
 うん。初音ミクにしたってさ,ユーザーさんの達の力によって成長して,大きくなっていったわけでしょう。その力っていうのは“日本の隠れた資産”なんですよ。そしてその熱量が,他の国にさえ伝播していっているわけですよ。それって凄いことだと思うんですよね。日本という国にとってみても,これは革新的なことじゃないですか。

4Gamer:
 そうかもしれません。

川上氏:
 そう考えた時,僕の中で,それは「ちょっとカッコいいかな」って思えたんですよね。ニコニコ動画というサービスが,日本に,世の中にあってもいいんじゃないかって思えた瞬間です。だから僕自身も,もっと真剣にニコニコ動画に対して取り組んでもいいのかなと。

4Gamer:
 なんか今日のお話を聞いていて,川上さんがスタジオジブリに行った理由が少しだけ分かったような気がしました。

川上氏:
 まぁ,ジブリに行くようになってからは,ドワンゴの仕事も前より真面目にやるようになりましたよ(苦笑)。

4Gamer:
 ははは。……まぁ,今日はこんなところですかね?

川上氏:
 そうですね。じゃあ,今日の話で大事なところは……,僕がAoEの漢のバリスタ戦術を生み出した(たぶん)ってところと,会社が倒産した後,誰もいないオフィスで一人でゲームを遊んでいたというあたりで。そこは絶対に記事で書いてほしい!

4Gamer:
 ええっ? そこなんですか!?

(つづく)

画像集#006のサムネイル/“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回

川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウエア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。
 
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