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Access Accepted第565回:THQ NordicがDeep Silverを買収して欧州最大級のパブリッシャに
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印刷2018/02/19 12:00

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Access Accepted第565回:THQ NordicがDeep Silverを買収して欧州最大級のパブリッシャに

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第565回:THQ NordicがDeep Silverを買収して欧州最大級のパブリッシャに

 オーストリアとスウェーデンのゲーム市場を基盤とするパブリッシャTHQ Nordicが,Deep Silverブランドで知られるドイツ最大手のKoch Mediaを,1億2100万ユーロで買収することが報じられた。Koch Mediaはヨーロッパ全域におよぶ流通網を持ち,「Saints Row」シリーズのVolitionや「Metro」シリーズの4A Gamesなど,有力な開発スタジオを傘下に擁するメーカーだ。今週は,再編の進むヨーロッパのゲーム業界を紹介してみよう。


Ubisoftに次ぐ,ヨーロッパ第2のパブリッシャが誕生


 2018年2月14日,オーストリアとスウェーデンのゲーム市場を基盤とするTHQ Nordicが,Deep Silverブランドで知られるドイツ最大手のKoch Mediaを買収すると報じられた。手続きは持株会社であるSALEM einhundertste Holdingを通して行われ,買収額の1億2100万ユーロ(約161億円)は,現金および株式の譲渡によって賄われる。この記事が掲載される日本時間2月19日の段階では,買収手続きはすでに完了している見込みだ。
 これにより,Deep Silverの経営権とすべての知的財産権(IP=Intellectual Property rights)は,THQ Nordicに完全移行する。今後しばらくは現状維持のままで,THQ NordicとKoch Mediaという2つの企業として活動を続けていく予定だが,いずれ新社名にすることも発表されており,5月16日に予定されている次期株主総会でその候補が提出されることになるという。

ヨーロッパで展開するゲームパブリッシャとしては,フランスのUbisoft Entertainmentのほか,Electronic ArtsやSony Interactive Entertainmentなどの外資系が目立つ
画像集 No.002のサムネイル画像 / Access Accepted第565回:THQ NordicがDeep Silverを買収して欧州最大級のパブリッシャに

 海外ゲーム好きの読者なら,THQ NordicやDeep Silverの名前を耳にしたことがあるはずだが,社名やIPについては少々ややこしい経緯があるので,ここで改めて説明したい。
 THQ Nordicの前身となるNordic Gamesは,オーストリアのJoWooD EntertainmentやカナダのDreamCatcher Interactiveなど,経営破綻したゲームメーカーのIPを買収する形で2011年,現CEOのラース・ヴィンゲフォシュ(Lars Wingefors)氏がスウェーデンで設立したパブリッシャだ。
 2012年にアメリカのTHQが破綻して保有していたIPが売却された際,Nordic Gamesは多数のIPと共にTHQの名称権も買い取り,知名度の高いブランド・アイデンティティを利用する目的で,2016年夏からTHQ Nordicに社名を変更して活動を続けてきた。

 THQ Nordicは直接の傘下として7社,関連企業として18社のデベロッパを抱えており,「Battle Chasers: Nightwar」「The Dwarves」「ELEX」など,小粒ながらも良く練り込まれたタイトルを発売している。2018年には「Darksiders III」「Pillars of Eternity II: Deadfire」「Aquanox: Deep Descent」,そして「This Is the Police 2」といった期待作が発売される予定だ。

 一方のKoch Mediaは,1994年にドイツで設立されたメディア企業で,マーケティングのプロとして,アプリケーションソフトウェアや映画のディストリビューションを手がけてきた。Deep Silverというゲームブランドが発足したのは2002年のことで,それ以降,「Gothic 3」(2006年)や「Risen」(2009年)など,ドイツで開発されたタイトルを中心にパブリッシングを展開してきた。

Deep Silverからリリースされたばかりの「Kingdom Come: Deliverance」。メインクエストを進められないというバグも見つかったようだが,ゲームシステムの改善を含めた調整を確約するなど,現時点でファン評価は高い
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 こちらもTHQの破産・解体の際に,「Saints Row」シリーズのVolitionや「Metro」シリーズの4A Games,さらに「HOMEFRONT the Revolution」のDambuster Studiosなどのデベロッパや,それらの知的財産権を獲得し,現在までに200以上のゲームタイトルを制作している。
 2016年にはcomcept/インティ・クリエイツの「Mighty No. 9」を海外でパブリッシングしており,さらに,YS NETが開発中の「シェンムーIII」の販売権を得るなど,日本とのつながりも深い。2018年にはFPSの「Metro Exodus」やオフロードレーシングの「Dakar 18」といった作品が控えており,またVolitionやDambuster Studiosは新作を開発中という状況だ。


旧THQの作品群が,再び集結


 最近のDeep Silverはゲーム業界での生き残りに苦労しているという印象で,2015年には“クリエイティビティの違い”から「Dead Island 2」の開発を一時中止したほか,2017年にリリースしたVolitionの「Agents of Mayhem」は,発売から半年が経過した今もなお,期待からは遠い25万本ほどのセールスに留まるという。

Deep Silverとのパブリッシング契約が結ばれているYS NETの「シェンムーIII」。2018年発売という予定には今のところ変更はないようだ
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 今回の買収により,「Saints Row」や「Metro」シリーズなど,旧THQ作品が再びTHQの名のもとに集結するわけで,さらにDeep Silverから発売されたばかりの「Kingdom Come: Deliverance」や,発売予定の「シェンムーIII」「Metro Exodus」などの新作タイトルもTHQ Nordicのもとでプロモーションや開発が進められる。
 双方を合わせると従業員は1600人以上,ゲーム関連IPの総数は未発表や企画段階の作品を含めて100タイトル以上,そして,本社内外のデベロッパの総数は36におよぶ。ヨーロッパを拠点とするゲーム企業としては,フランスのUbisoft Entertainment(スタジオ数29。 従業員数約7800人)に次ぐヨーロッパ第2のパブリッシャというポジションを築くことになる。

 THQ Nordicにとって,Deep Silverの保有するIP以上に魅力的なのが,Koch Mediaがヨーロッパ全土に抱える流通網だろう。これまでTHQ Nordicがセールス/マーケティングの拠点としていたのは現在の本社があるウィーンのみだったが,今後はKoch Mediaがドイツ,イギリス,イタリア,フランス,スイスなどヨーロッパ各地や北米に構えていたオフィスが一気に増えることになるのだ。

 詳しい予定は発表されていないが,今後,経営基盤を固めていくうえで上記のデベロッパやオフィスのいくつかがリストラの対象になる可能性はある。とはいえ,Koch Mediaはスクウェア・エニックスなど大手パブリッシャの流通も担当しており,欧州ゲーム市場におけるTHQ Nordicの影響力は大きなものになるはずだ。

gamescom 2017のTHQ Nordicブースには活気があった
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 ドイツで開催されるgamescomを第1回から9年にわたって取材してきた筆者の知る限り,Deep Silverは2010年を最後にプレス向けのカンファレンスを開催しておらず,開催したときもドイツ語だけで発表を行うなど,海外向けのアピールが弱い印象が強かった。
 もともとヨーロッパには優れたデベロッパが多いが,アメリカやフランスと肩を並べる大手パブリッシャは少なく,Ubisoftのほかには,スウェーデンのParadox Interactiveが国際的に活躍しているくらいだ。同社ではこの2月,設立から18年間指揮をとってきたフレデリック・ウェスター(Fredrik Wester)氏が経営権のない会長職に退き,女性役員のエバ・ユングルード(Ebba Ljungerud)氏が新たなCEOに就任するなど,今回のDeep Silver買収劇を含めて,ヨーロッパのゲーム業界には今,さまざまな動きがみられる。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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