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印刷2018/04/16 12:00

業界動向

Access Accepted第572回:Facebookのユーザー情報流出に見る,デジタル時代のプライバシー保護

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 今,アメリカでは,Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏がアメリカ議会の公聴会に出席して証言を行ったことが話題になっている。いまいちピンと来ないという人もいるかもしれないが,SNSに限らず,我々が知らないうちに,さまざまな経路で個人情報が流出している可能性があるのだ。今週は,ゲームと直接関係のある話ではないが,こうした現代のプライバシー問題について考えてみたい。


Facebookのデータを大統領選挙に使ったというCambridge Analytica


 北米時間の2018年4月10日と11日,北米のSNS,Facebookの会長兼CEOマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏が米議会の公聴会で証言を行った。長時間にわたる質疑でザッカーバーグ氏は,8700万人分にもおよぶ利用者のデータが不正に共有された件について述べ,Facebookが悪用される可能性について十分に対処していなかったことを謝罪した。

公聴会に出席したFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏。Cambridge Analyticaのスキャンダルは,Facebookにとって大きなダメージになるかもしれない。問題の拡大を避けるためにも,なんらかの手を打っていくことが迫られている
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 経緯を簡単に説明すると,今回の話はドナルド・トランプ現大統領が2016年に大統領選に出馬した際,ロシアの関与が疑われたことに端を発する。議会がこの件についての調査を進める過程で名前が浮かんできたのが,選挙コンサルティング企業のCambridge Analyticaだった。トランプ陣営の選挙対策本部長だったスティーブ・バノン氏が役員を務めていた同社は,データマイニングやデータ分析による選挙コンサルティングを行っているのだが,その手法を使ってトランプ陣営が有利になるような情報操作や偽ニュースの流布などを行っていたという。

 2018年3月17日,イギリスの大手メディアThe Guardianが,「Cambridge Analyticaが,Facebookの5000万人分(現在は,8700万人分とされている)にもおよぶデータを不正に利用していた」という記事を掲載した。Facebookは2010年4月,Facebookアプリを制作するサードパーティに向けてユーザーのデータをシェアできる「Open Graph」という機能を提供したが,Cambridge Analyticaは2013年に「thisisyourdigitallife」という個性診断アプリを公開し,このアプリで,Open Graphを介してユーザーのデータを取得したという。
 この情報を利用して特定の選挙民のマイクロターゲティングを行い,選挙戦を有利に戦ったというわけだ。

アメリカの大統領選についての疑惑が問題の中心だが,Cambridge Analyticaは同時期にフィリピン,マレーシア,そしてイギリスでも活動していた痕跡があるという。Cambridge Analyticaは現在,すべての情報は合法的に入手したもので法には触れていないと反論している
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 Facebookは2014年,「個人情報の利用を認めたユーザーでも,その友人のデータまで利用してはいけない」というOpen Graphに関する禁止項目を設定しているが,Cambridge Analyticaは「心理グラフィックス・プロファイリング」(Psychographic Profiling)という手法により,登録ユーザーのフレンドリストから数珠つなぎでデータを取得していったとされる。
 例えば,あるユーザーがフィットネスやヨガの情報を掲載していた場合,フレンド登録されている知人達も同じ嗜好を持つことが想像できる。ゲーム業界にいる人なら,同業者でつながっているだろうし,医療や保険の情報を求めている人なら,何らかの病気や不安を抱えているかもしれない。Cambridge Analyticaは,8700万人ものデータを駆使し,共和党の主張に興味がある層や,民主党に不満を持っている層などを対象に選挙キャンペーンを行っていたという疑惑が持たれているのだ。

 こうした嗜好性や関係性のデータ収集は顧客を知るうえでは重要であり,Facebookだけでなく,ほかの多くのSNSも同様なことを行っているかもしれない。このデジタル時代,我々消費者は個人情報と引き換えにサービスを受けているとザッカーバーグ氏は公聴会で述べている。


細かいユーザーデータが取得できる時代


 ザッカーバーグ氏の発言どおり,我々はさまざまな情報を知らないうちに持ち出されているようだ。例えば,Oculus VRのRiftなどに向けて,ユーザーがVR映像を見たとき,どこに集中して見たかという「ヒートマップ」をデベロッパに提供するツールやミドルウェアが数多く登場している。その気になれば,ある物を見ながらユーザーが何を話したのかもマイクで分かるだろうし,利用時間やHMDの動きから,ユーザーの疲労度なども測れるはずだ。「スパイが電話の会話が盗聴しているかもしれない」という話は古今東西,よくあるものだが,今どきのソーシャルサービスでは,それが不特定多数に向けられているということだろうか。

これは「Microsoft HoloLens」のモックアップ画像だが,MRデバイスはメディカル分野での応用が大きく期待されている
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 Oculus VRが公開しているプライバシーポリシーよれば,GPS信号などの情報源から得られるデバイスの正確な位置情報やアクセス方法,インストールしている(サードパーティのものを含めた)アプリやゲーム,さらにはユーザーの身体の動きや体格といった情報まで自動的に収集すると書かれている。
 Oculus VRは,こうした個人データの利用は限定的で,親会社のFacebookなどとの情報共有はしていないという。とはいえ,登録時のオプションとしてFacebookアカウントとOculusアカウントがリンクできるなど,ややグレーな部分もないではない。このことは,以前から問題視されているようで,サポートページにはFacebookアカウントとのリンク解除方法についても記載されている。

 VRは,「閉ざされたバーチャル世界」だが,これがAR/MRデバイスになると,可能性は現実世界へ広がっていく。新型のMRヘッドマウントディスプレイ「Magic Leap One」で注目を集めるMagic Leapが2016年に申請した特許出願の資料で,「MRの未来像」についての予想を行っているのだが,これが,見方によってはいささか不安を醸し出すような内容になっている。

 彼らは,近未来のプラットフォームホルダーは,町中に大きなステージを築き,そこでMRデバイスのユーザーのみが楽しめるエンターテイメントや展示を行うとして,「もしユーザーが小さな子供なら,デジタルの子犬とじゃれることができます。それが大人のユーザーなら,ロボットを出現させることができます」と,日本人がよく知る巨大ロボットっぽいイラストを用意している。

 さらに,コーヒーのチェーン店スターバックスとの提携を一例に挙げて,「MRデバイスのユーザーが街を歩いているとき,誰かの持っているコーヒーに目をとめれば,デバイスはそれを認識して近くのスターバックスを紹介し,何らかの特典などをオファーすることもできるでしょう」としているが,これなどは,メーカーとサードパーティによる個人情報の共有にも感じられる。我々の見るものや話すことがデータとして知らないところに集められ,ユーザーの利便性という名の下に利用されているという感じだ。

イラストのロボットが何なのかはともかく,とても便利な近未来とプライバシーのないディストピアが筆者の脳裏で交錯する。考えてみれば,ユーザーの位置や嗜好は現在でもさまざなSNSやスマートデバイスにトラッキングされているわけで,いまさらすぎるのかもしれないが
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 こうしたことについては,Valveの古参エンジニアとして「Half-Life」「Left 4 Dead」シリーズに携わり,さらにHTC Viveの開発を経て,現在はイギリスのBossa Studiosに在籍するチェト・ファリスゼック(Chet Faliszek)氏が,自身のTwitterで警鐘を鳴らしている。長くなるので引用はしないが,興味のある人はチェックしてほしい。

 多少の個人情報を提供することで暮らしが便利になるのだったら,それはそれでかまわないと考える人もいるだろう。コーヒーが飲みたくなったことを他人に知られても,とくに実害があるとは思えないが,取得したビッグデータがもし選挙に影響をもたらしたのだとしたら,ことは重大だ。
 ヨーロッパでは,個人データの保護強化を目的とした「一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation=GDPR)が,2018年5月25日に施行されることになっている。日本でも,大きな問題が発生する前に,「デジタル時代のプライバシー保護」について議論しておいたほうがいいだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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