連載
結のほえほえゲーム演説:第54回「どんどん垂れ流してください」
忘年会,新年会シーズンもひと段落しましたが,皆さんはカラオケという文化にどれほどなじみがありますか? 最後にカラオケを歌ったのはいつですか?
私が初めてカラオケという文化を認識したのは小学2年生の頃。同じ小学校の5,6年生が近所の児童館でカラオケ大会を開催していたのです。
あのカラオケ大会を目撃したときの衝撃は忘れません。音楽の授業で歌のテストを受けるとき,同級生の前で歌うのが死ぬほど恥ずかしかった私にとって,なぜ必要もないのに人前で歌なんて歌えるのか,さっぱり理解できませんでした。罰ゲームか。
中学に入学すると,カラオケというイベントは避けて通れず,部活の合宿では一人一曲歌うことになりました。めちゃくちゃ気を遣ってくれる優しい先輩が「これなら歌える?」と曲を探してくれたりもしたのですが,はやっている曲がさっぱり分かりませんでした。
一番好きだったBLANKEY JET CITYを入れてみたものの,曲を知っている人がいなかったので大スベリ。というかなぜ文芸部の合宿でカラオケをしていたんだろう。
カラオケというイベントでは,その場に居合わせた人達の多くが知っている曲を入れた者が勝つ,いわば“最大公約数”の読み合いが発生するもので,曲を入れた瞬間に,周囲から「あーーー!!!! この曲知ってるーーー!!!!」という反応を得られるほど良しとされる風潮があります。
同世代や同じ趣味の仲間が集まる学生時代のカラオケとは打って変わって,社会人になってからのカラオケでは“最大公約数”の読み合い難度が跳ね上がります。
初対面同士の合コンや,社会的に気を遣うべき相手の居るカラオケには「この場を盛り上げなければならない」という謎の責任が強く伴うことでしょう。
「いまめっちゃハマってるアニメの曲なんですけどぉ〜」とか言ってキャラクターソングを入れたが最後。空気を読めない人のレッテルを貼られてしまいます。
そんな気遣いに疲れていく人,仕事や家庭が忙しくなって時間がとれない人,それぞれの事情があるにせよ,年齢を重ねるにつれてカラオケへ訪れる機会が自然と減っていく人は多いでしょう。
私は自分から「カラオケに行こうぜ!」というタイプではなかったので,歳をとると周囲から誘われる回数が減っていき,大学を卒業して以降は,年に1度行くか行かないかくらいでした。
しかしですね,2018年の1月に,私はなぜか3回もカラオケに行ったんですよ。なぜか。
そんなに連続で行くほど何が楽しかったかって,友人達が気を遣う素振りを一切見せなかったことです。流れるPVに映るバンドメンバーを「かっこいい……かっこいい……」と呟きながらうっとり眺めていたり,「うろ覚えだけどこの曲入れるわ」と宣言したと思ったら,本当にうろ覚えで,音程のわからない箇所をラップにしたり,その場にいる誰もが見たことのないアニメのオープニングを1期,2期,3期と順に歌ってみたり……全員がとにかく自由でした。
「カラオケとか行ってみちゃうかぁ」くらいのノリでやったことが思いのほか楽しくて,その友人達とわずか20日のうちに3回もカラオケに行きました。
これはちょいとおかしい。学生時代でもこんなに頻繁に通ったことはないんじゃなかろうか。
最近って,SNSの影響もあると思うんですが,何かを好きだと発言するときに,意味や理由が求められがちだと思うのです。自分の趣向による発言がコミュニケーションに発展することを見越しているというか。
友人達とのカラオケでは,自分の趣向がコミュニケーションに発展することに対する期待が,それぞれ限りなく薄かったことが非常に新鮮でした。
だからこそ,友人の選んだ曲にリアクションしなくちゃという責任も生まれず,リアクションしやすい曲を選ばなきゃという責任も生まれませんでした。友人が自身の世界に浸っていれば浸っているほど,気を許してもらったような高揚感すらあります。
最寄りの駅から家まで歩いている夜,熱唱しながら自転車を漕いでいる人とか,ヘッドフォンしながら鼻歌のボリュームが上がっちゃった人とか,たまーに見ず知らずの人が歌っているところに遭遇しするじゃないですか。あれって気恥ずかしいけど,どうも嫌いじゃない。
私は,ゲーム実況の動画にハッキリと好みがあります。動画の冒頭で視聴者に長々と丁寧に挨拶をしたりする,視聴者を意識したものがなんとなく苦手で,一方的なくらい好きに垂れ流している(かのように見える)ものを,こっちが勝手にのぞいでいる感覚で視聴出来る動画がたまらなく好きなのです。もしかしたら,先日のカラオケもそういう感覚に近かったのかもしれません。
そういえば昔,私がモデル事務所に所属していた時代に,モデルやマネージャーと打ち上げでカラオケに行ったことがあったんですが,EXILEやら西野カナやらが飛び交うなか,事務所の雰囲気に馴染むことを諦めていた私が,ゴリゴリの電波ソングを歌ったんですよ。間奏に長いセリフがあるヲタク丸出しの曲を。やけっぱちで。
すると,事務所の中で一番のセレブキャラだったお姉さんモデルから「結ちゃんの魅力がもっと輝く場所はきっとここ(モデル業界)以外に存在する!」と,見たことないくらい真剣な顔で,真面目に説得されたんです。
今思えば,当時の私は,キングオブ陽キャぞろいのモデルさん達の中で,自分らしく振る舞ったり,本音を話しても意味がないと思い込んでいたんです。絶対に相容れないと。
だけど,コミュニケーションに発展することを期待していなかった趣味趣向って,思わぬ形で誰かに届いたり,つながったりするものなんですよね。
だから私は,誰に向けたわけでもない,あなた自身が垂れ流されていく様子を,ただそっと覗いてみたいのです。
最近プレイしているゲーム(2018/1/27)
PS4:「New みんなのGOLF」
Nintendo Switch:「ゼノブレイド2」
ニンテンドー3DS:「ポケットモンスター ウルトラサン・ウルトラムーン」
iOS:「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」
■■結(女優・タレント)■■
女優・タレントとしてフリーランスで活動中。国内映画祭にて主演女優賞を多数受賞。幼少期からのゲーム好きが高じ,数多くのゲーム番組でMCを務め,イトキチ(糸吉)の愛称で親しまれている。
公式サイト:http://yui-monogatari.com/
公式Twitter:https://twitter.com/xxxjyururixxx
ニコニコチャンネル「結チャンネル」:http://ch.nicovideo.jp/yuichannel
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