［レビュー］「Football Manager 2024」は，コアな経営シムであり，サッカーファンにはたまらないデータの宝庫だ。SLG好きとサッカーファンに伝えたいFMシリーズの魅力

　2023年11月7日にセガから発売された「Football Manager2024」（PC / Mac / PS5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch / Apple Arcade / Netflix。以下，「FM24」）は，イギリスのデベロッパ・Sports Interactiveが展開するサッカークラブ運営シム「Football Manager」（以下，「FM」）シリーズ最新作だ。

「Football Manager 2024」公式サイト

　前身である「Championship Manager」の誕生から約30年という長きにわたり，多くのサッカーゲーム愛好家を魅了しているFMシリーズだが，FM24で本格的な日本語対応とJリーグ実装が行われたことで興味を持ったというサッカー好きやゲームファンも少なくないだろう。そんなFMシリーズの魅力や最新作FM24の特徴，そして楽しんでほしいポイントを，サッカー好きのゲーマーであり，長年のFMシリーズプレイヤーの視点からお伝えしたい。

なお，本稿はPC版のプレイを元に執筆しており，プラットフォームによって内容が異なる箇所があるので，そこにはご留意いただきたい。コンシューマ版については，サッカー経験者でSLG好きの“ゲイマー”である男色ディーノ選手による［こちら］のPS5版先行試遊レポートも参考にしてほしい

シム好きのサッカーファンがまず伝えたい，FMシリーズの魅力

　FMシリーズの魅力を語るとなると，その膨大なデータベースに触れないわけにはいかないだろう。世界的なリーグで活躍する名プレイヤーからアマチュアクラブでデビューしたばかりの無名の若手まで，世界のさまざまな国と地域の選手を網羅。それらの選手をマネジメントしながらチームを作り，国内リーグやカップ戦といったさまざまな試合に挑むのが醍醐味となっている。


　サッカークラブを運営するゲームは少なくないが，圧倒的な情報量に基づいた緻密なシミュレーターという点では，疑いようもなく群を抜く作品だと言えるだろう。元からのサッカーファンはもちろん，本作をきっかけにより深くサッカーに触れるようになったというシミュレーション愛好家も少なくないはずだ。


　かくいう筆者自身が，FMシリーズでサッカー好きになったシミュレーション愛好家の1人である。最初にプレイしたのがFMの前身である「Championship Manager 01/02」（当時のパブリッシャはEidos Interactive）で，時期としては日韓ワールドカップ（2002 FIFAワールドカップ）の開催で日本のサッカー熱が高まっていたころだ。


　歴史に対する知識欲を満たしながら国家を多角的に運営する楽しさを味わえるParadox Interactiveの歴史ゲーム（いわゆるパラドゲー）にのめり込んでいたころに「なにやら同じ匂いを感じるぞ」と感じたのがゲームを始めたきっかけで，選手の特徴が細分化された選手データの緻密さに圧倒されたことを覚えている。
　また，ワールドカップでの日本代表の躍進，サッカー専門誌・ワールドサッカーマガジンでACミランの特集を見たことで，それまで以上にサッカーそのものや戦術に興味を持ち始めた時期でもあり，知的好奇心を満たしてくれる意味でもこのサッカークラブ運営シムは大きな存在だった。


　このようにFMシリーズは，最新の移籍動向や流行の戦術などをゲームプレイをとおして学べる，サッカー知識を深めるうえで欠かせないツールとしての一面もある。シーズンが変わるごとに新バージョンが発売されるため，毎年同じ熱量でプレイするのはなかなか難しい部分もあるが，現実のサッカー界の動きをなぞるようなシミュレートを楽しみながら現代サッカーの知識を得られるところは，サッカー好きにとって大きいだろう。


　もちろん，自分の好きなクラブやマイナーリーグの下部クラブのサクセスも自由に楽しめる。リーグ昇格や重要な試合でのジャイアントキリング達成などは，（絵的なイベントシーンは基本存在しないゲームだが）その目に焼き付くほどの体験となるだろう。
　筆者もかつてのプレイで，中堅リーグであるトルコ2部の弱小チームを1部の強豪に育てたこと，マイナーリーグであるスロベニアのクラブでFCバルセロナ相手にチャンピオンズリーグで勝利したことなど，思い出深いシーズンはたくさんある。

シリーズ最新作でも健在である，2Dの試合観戦モード。現在のリアルな試合描写も熱狂させてくれるが，想像力を描き立ててくれるこちらの試合表示が好みという人はけっこういるのではないだろうか

日本のFMファンが夢にまで見た，Jリーグと日本語の公式対応

　そんなFMシリーズが，（かつて単発で対応されることはあったものの）ついに日本語でプレイできる。これまで日本語版がなかったFMシリーズは，日本の有志達による日本語化によって国内人気は支えられていたが，この日本のコミュニティの作品愛が公式の日本語版展開につながったと思うと感慨深い。


　FM24がここまで注目を集めることになった要因と言えば，何といってもJ1からJ3まで，日本国内リーグのクラブや選手などのデータが実名化されたことだろう。
　これまでもJリーグの情報を追加するModはあったが，日本語と同様に正式実装されたことは重要なトピックだ。TGS2023のインタビューでMiles Jacobson氏（Sports Interactiveのスタジオディレクター）が話しているとおり（関連記事），日本はもちろん海外のサッカーファンからも期待されていたことであり，FMシリーズとしても大きな前進でもある。
　今後も継続的にサポートしていく条件が整ったことの意義も大きい。2023-2024シーズンの新作が出てすぐで気が早いかもしれないが，今後のシリーズ作品の日本語実装の継続にも期待したい。


　最初に伝えたとおり，ゲームを遊ぶことで現実のクラブや選手，戦術などの理解を深められるので，Jリーグファンにもぜひプレイしてほしい。ゲームを進める手を休め，自クラブやライバルクラブの選手データを眺めるだけでも十分楽しめるはずだ。
　……というより，あっという間に時間が過ぎて驚くかもしれない。それくらい膨大かつ緻密なデータベースが用意されているのだから。


　なお，Jリーグ以外にも，ライセンス許諾によって最新の23/24シーズンのユニフォームやロゴが実装されているリーグやクラブは数多くある。ドイツのブンデスリーガを中心に，一部のクラブでは選手の実写ポートレートにも対応しているが，リリース後も完全には揃っておらず，順次対応が進められている（日本のクラブも含む）ようなので，引き続き情報更新は見逃さないようにした方がよさそうだ。

さらにリアルになった移籍システムで，移籍市場はダイナミックに

　ここではFM24でさらに現実のものに近づいた移籍システムの面白さに触れたい。
　FM24では多くの選手に代理人がついており，移籍や契約更新の交渉は選手ではなく彼らを相手に行う。こうした代理人には「交渉時の忍耐強さ」などのステータスがあり，相手によっては数回移籍金を値切っただけで交渉を打ち切られることもあって気が抜けない。さらに新要素として外部の仲介人にも依頼できるほか，現実のサッカー界でも注目されているオンライン移籍プラットフォームTransferRoom（公式リンク）との提携による，代理人や仲介人を通さない（FMシリーズでは従来型と言える）交渉も可能だ。


　それらの新システムによって，こちらから積極的に移籍を働きかけられるようになったため，選手を移籍リストに載せたら，あとは声がかかるのをひたすら待つのみ……といったことがなく，選手の移籍先が見つけやすくなった。前作までと比べて，AIも移籍交渉を活発に行うようになった印象で，こちらが移籍リストに載せた選手がまったく見向きもされない，というケースは減少しているようだ。


　このように，現実のサッカー界の状況をふまえた形で移籍システムがより重層的になり，さまざまな選手売却アプローチができるようになった。移籍市場のダイナミズムが増したおかげで，FM24では不要な選手はためらわずに放出し，そうして得た資金でチームを補強するという一連のアクションがストレスなく行えるようになったことは，一つのクラブを長年率いて，徐々に強くしていく……というプレイを好む人にとってありがたい改善点と言えるだろう。

戦術システムでは，セットプレイの詳細な指示が可能に

　移籍を通じたチームの強化と並ぶFMシリーズの醍醐味と言えるのが，極めて高い自由度とそして緻密さを誇る戦術システムだ。
　ゲームをプレイし，「現在の選手層を考えると，たしかにこの戦術だね」「彼がこのポジションにいることは，ビルドアップにこういったプラスの影響を与えるのか」といったように，現実の試合の見え方や理解度が変わった人は少なくないだろう。また，試合で感銘を受けた戦術をゲーム上での再現にチャレンジする人もいるかもしれない。
　それくらい戦術はディープな設定ができ，それはFM24で健在どころか，さらなるパワーアップを遂げている。


　FM24の戦術システムの新要素は，現実のサッカーでも全得点の約3割を占めると言われるほどに重要なセットプレイに関する設定だ。前作でもフリーキックのキッカーやターゲットマンの指定といった十分すぎるほどの指示が出せたのだが，本作では攻撃時と守備時それぞれのポジショニング，センタリングを上げるエリアなどの緻密な指定が可能になっている。


　それ以外の戦術の指定は前作までと同様に，「戦術スタイル」「フォーメーション」「選手の役割」を順番に決定していく流れになっている。
　あらためて説明すると，「戦術スタイル」は，どのようなサッカーを目指すかという大まかな方針を決定する項目だ。守備をしっかり固めてプレッシャーに耐え，チャンスで一気に仕掛けるカウンター戦術か。それとも絶妙なポジショニングで試合をコントロールする，流れるようなパスサッカーか。カウンターにしてもポゼッションにしてもいくつかの種類に分かれており，またカテナチオやゲーゲンプレスといった，サッカーファンであればそのワードを聞いただけでも「試したい」となるような戦術も用意されている。


　戦術が決まったら「フォーメーション」の選択に移る。戦術スタイルに適したフォーメーションが3つ提示されるが，勧められたもののなかから選ぶか，そこにはない選択をするかはプレイヤー次第だ。そして最後の項目「選手の役割」だが，これはサッカーファンにとってたまらないものとなるだろう。
　サッカーファンならばご存知のように，例えばサイドバック一つとっても，その役割は選手の特徴やチームの戦術によって大きく変わる。守備に徹するか。積極的に攻撃に参加しサイドアタックを仕掛ける役となるか。守備タスクをこなしながら，ピッチの広範囲で攻撃の起点となる役割をも担うか。それらをチーム全体の指示だけではなく，ドリブルやプレスの頻度，他選手との距離感といった個人の項目で，さらにボールのキープ状況といった条件別で細かく設定できる。


　このように，プレイスタイルとフォーメーション，選手個別の役割などの組み合わせ次第で，いろいろな戦術を試したり，微調整したりできる。監督であるプレイヤーの理想的な戦術を構築するのもよし，チームの現状を見据えた戦い方を考えるのもよし。好きな路線を追求できるわけだ。
　なかにはあまり聞きなれない，または一般的にまだ広まっていない戦術やポジション，選手の役割もある。繰り返しとなるが，こういった形でゲームを楽しみながら最先端の戦術や選手の役割，サッカー用語を学べることもFMシリーズの魅力だ。

シリーズ未体験の人に嬉しい，充実したアドバイス・委任機能

　さて，簡単に戦術設定の流れを紹介してみたが，ふだんゲームをしないというサッカーファンやFMシリーズを未プレイの人は「興味があるけれども難しそうだなあ……」と思うかもしれない。
　確かにFMシリーズはお世辞にもカジュアルなゲームとは言えない。資金が潤沢な強豪クラブを選べば安定したプレイはできるものの，それでも選手管理や戦術の構築次第でなかなか勝ちきれない事態も発生するという，シビアな面もある。そもそもが，基本的には文字情報とにらめっこしてアレコレ考えるというコアゲーマー向きのゲームであり，絵的な部分でも（テレビ観戦のような試合の3Dモードはあるものの）とっつきにくさはあるだろう。


　しかし，「初心者に冷たい」ゲームでは決してない。ゲーム開始時に，監督がすべきことを一通り教えてくれるチュートリアルが用意されているからだ。
　それらのチュートリアルは「移籍」「スカウト」「トレーニング」「戦術」といったように細かく，そして段階的に用意されている。初めてその項目の設定をするとき，つまりゲームをプレイする流れで教えてくれる仕組みになっているので，いきなり詰め込まれるといった思いをすることはない。
　また，クラブ運営のほぼすべての項目をAIに委任でき，戦術テンプレートのようなプレイヤー側のマイクロマネジメントを回避する工夫もある。慣れないうちは移籍や試合周りだけを担当すればテンポ感よくサクサクとゲームを進められるし，ゲームの大まかな流れを掴んだらユースチームの運営やトレーニングスケジュールといったように，自身が担当する部分を増やしていくという形でゲームの各要素を楽しめるようになるはずだ。


　さらに，近年のFMシリーズ作品ではアドバイス機能が大幅に強化されており，アシスタントマネージャーや各部門の担当スタッフがお勧めの選択を提示してくれることも強調しておきたい。
　戦術の設定や次の試合のスタメン決定をはじめ，プレイ中に求められるほぼすべての選択肢でアドバイスがもらえるので，慣れないうちは彼らプロの声に耳を傾けていれば問題ない。そう言えるほど，FM24でもその助言は非常に的確だ。あまりに楽でついつい従ってばかりとなり，「監督としての仕事，実は全然していないのでは……？」と反省した筆者のようにならないようにだけ気を付けてほしい。


　本作でFMシリーズデビューするという人は，まずは現実でも成績が安定しているビッグクラブを選び，移籍や戦術などの基本となる要素のみを自身で操作してゲームの雰囲気を味わうところから始めるといいだろう。前述したとおり，戦術やフォーメーションだけでもあれだけ考えることがあるわけで，関与する領域を限定したとしても，FMシリーズのディープなゲーム性は十分に味わえるからだ。
　戦術や選手のコンディション次第では，強豪クラブですら苦戦することもあるので，ゲームの歯ごたえもほどよく体験できるはず。そうしてゲームを進め，少しずつゲームシステムの理解を深めることで，思い通りのクラブ運営が楽しめるようになるだろう。そこからさらに深い沼が始まるので，ぜひ足を踏み入れてほしい。

　なお，近作ではかつてあった難解さやテンポの悪さがかなり改善されており，FM24で引き続き遊びやすさは考慮されている。日本語化とJリーグ実装で久しぶりにFMシリーズに復帰するというゲームファンは驚くのではないだろうか。


　最後にもう一つ，FM24で初めてFMシリーズに触れるという人にお勧めの遊び方を伝えたい。
　それは，プレイヤー自身で中長期の目標を定めてプレイすること。「今シーズンのリーグ優勝」「数年以内にリーグ昇格し，その後は再降格しないだけの実力をつける」といったシーズンごとの達成目標は，ゲーム内でも役員会やサポーターの要望という形で設定される。それとは別に，プレイヤーの純粋なこだわり――「自分の好きな戦術でリーグ制覇」「特定の選手を点取り屋とした戦術プランで得点王を狙う」といった目標を持つと，新たなシーズンに挑むときの楽しさがまた大きく広がるのだ。


　例えばACミランでプレイしている筆者の場合，インテルやユヴェントスといったライバルに負けないのは当然のこと，2000年代に猛威を振るった「4-4-2ダイヤモンド型」への回帰という目標を掲げた。さらに，フランコ・バレージやパオロ・マルディーニといった同クラブのレジェンドプレイヤーのような，チームの中心となるイタリア人選手の獲得と育成も試みている。
　このように，シーズン目標だけではなく中長期的な自身の目標をもってゲームを進めると，やりがいはもちろん，監督として率いるクラブや選手に対する強い思い入れが生まれ，それがゲーム継続のモチベーションにもなるのだ。


　FMシリーズには大きなエンディングがない。リーグや国内外のカップ戦を制する常勝軍団を築いたとしても，主力の移籍や世代交代でクラブの事情は大きく変わる。一方でリーグ制覇やカップ戦優勝は，ある種のエンディング的な，自クラブの短期的な成果を感じられるハイライトにもなる。何かをやり遂げたとき（それはリーグ優勝といった大きな目標ではなくても）の達成感や，次に進もうと沸き立つ向上心は，ほかのゲームでは得難いものがある。


　FMシリーズは，サッカーファンが，サッカーというスポーツをさらに愛せるようになるゲームだ。現実のサッカー界の動向を反映させる形で改良されたFM24は，ジャンル的にハードルの高さはあるものの，正式日本語化やJリーグ実装はもちろん，チュートリアルやアドバイスの充実でもFMデビューにお勧めできる。自分自身の監督人生をロールプレイしながら，国内外のさまざまなリーグでのクラブ運営を楽しもう。

「Football Manager 2024」公式サイト