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日本とオランダのシリアスゲーム事情を紹介する「第1回シリアス&アプライドゲームサミット」の基調講演および特別講演をレポート
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印刷2017/02/24 20:34

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日本とオランダのシリアスゲーム事情を紹介する「第1回シリアス&アプライドゲームサミット」の基調講演および特別講演をレポート

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 日本デジタルゲーム学会 ゲーム教育研究部会(DiGRA Japan 教育SIG)は本日(2017年2月24日),オランダ王国大使館との共催で「第1回シリアス&アプライドゲームサミット」を東京都内で開催した。
 あらためて説明しておくと,シリアスゲームとは,社会におけるさまざまな問題の解決を目的として開発されるデジタルゲームのこと。教育,訓練,医療や福祉分野での活用が期待されている。またアプライドゲームとは,オランダにおけるシリアスゲームの呼称である。

 今回のサミットでは「ゲームの力で世界を救え」を合い言葉に,シリアスゲームおよびアプライドゲームの研究開発と普及を目指し,日本とオランダを中心とする各国,各分野の関係者が,討議や情報交換を行った。本稿では,会場にて行われた本サミットの基調講演と特別講演の模様をレポートしよう。

「第1回シリアス&アプライドゲームサミット」公式サイト


東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師 藤本 徹氏
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 本サミットの基調講演「シリアスゲームへの期待」を行ったのは,シリアスゲームやゲーミフィケーションなどについて長年研究を進めている,東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師の藤本 徹氏。まず藤本氏は,社会的な用途でゲームを活用したいという需要は昔からあり,関連する研究がずっと進められてきたことを紹介した。

 それによると,1990年代以前には疑似体験やシステム的側面を重視する「ゲーミング&シミュレーション」分野と,テレビなどの娯楽を使う「エンターテインメントエデュケーション」分野の研究が進められていたという。

 そして後者の分野には,1990年代に「エディテインメント」という言葉が登場した。さらに2000年代には,「シリアスゲーム」という言葉が生まれ,上記の二つの分野が合流。その流れの中で2010年代には「ゲーミフィケーション」という言葉が広く使われるようになった。

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 しかし,2000年代におけるシリアスゲームのムーブメント以前は,ゲームの教育的な側面はなかなか理解が得られなかったようだ。会場では,Simulation&Gaming誌の編集長Pierre Corbeil氏による「ゲームはシリアスなものではないという根強い偏見」(1999年)という表現や,シリアスゲームがポピュラーになったあとの2003年におけるJames Paul Gee氏の「私がゲーム研究を始めたときは,『こいつは頭がおかしくなったんじゃないか』といった目で見られた」という発言が紹介された。

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 2004年には,GDCにて「Serious Game Summit」が開催され,数百名が参加したとのこと。その流れを受けて,藤本氏らが日本でも「シリアスゲームジャパン」を設立することとなり,また講演などを通じてシリアスゲームの普及に努めた。

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 そして2007年2月には,藤本氏の著書「シリアスゲーム」が刊行され,シリアスゲームという言葉がようやく日本でも広く知られるようになったのだが,海外ではそれを上回るスピードで研究が進められ,さまざまな研究書や論文が発表されて成果が蓄積されていったという。

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 ただ,日本も海外ほどの勢いはないにしろ,ゲームに対する認識はしっかり変化している。藤本氏はその一例として,2002年の書籍「ゲーム脳の恐怖」では,ゲームが子どもに与える悪影響が取り上げられていたのに対し,2012年の書籍「ゲームにすればうまくいく」では,ビジネスに役立つ要素としてゲームの持つ側面が取り上げられていることなどを紹介した。

会場では,日本のゲーム業界におけるシリアスゲームの立ち位置や,ゲームが教育研究領域として認知されてきていることも紹介された。とくに2009年以降,さまざまな動きが出ていることが読み取れる
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 藤本氏は,米国やオランダのようにシリアスゲームが広く認知されている国家の傾向として,政府による公的なバックアップが進んでいることを挙げた。例としては,オバマ大統領時代の米国では「STEM教育」が掲げられ,数学や科学などの理系教育をデジタルメディアを使って改革していこうという取り組みによって,シリアスゲームが盛り上がったことが示された。

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米国ホワイトハウスがゲーム開発者および研究者を専任アドバイザーとして起用したことや,30%以上の大学生が何らかの形でシリアスゲームについて学んだというデータも紹介された
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オンラインで誰でも無料で受講できる講義「MOOC」(Massive Open Online Course)にて,シリアスゲームやゲーミフィケーションが科目として採用されていることも示された
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 次に藤本氏は,ゲーム開発と自動車開発を比較し,エンターテイメント目的で開発されるゲームはレーシングカーやスポーツカーのようなもの,シリアスゲームは消防車や救急車など特殊な用途に使われる車両のようなものであり,まったく目的が異なると表現。
 またゲーミフィケーションは,自動車開発の過程で生まれた技術の転用と同じであり,そうやって考えていくとゲーム開発者の活躍の場を拡大することにもつながるとの見解を示した。なお米国では,ゲーム開発教育を受けた人の就職先として,シリアスゲーム分野や教育分野が目立ってきているとのことである。

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米国の教育現場にてゲーム開発者が起用され,ゲームを応用したカリキュラムや教材を作っている事例も示された
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 基調講演の最後に,藤本氏は今後高まっていくゲームの社会的価値に言及した。それによると,まずは小説や映画,コミック,アニメと同様に,シリアスゲームも「良質なエンターテイメントエデュケーション」の一つとして認められていくだろうとのこと。
 また,学校ではカバーできない分野において「教育や社会問題解決のためのツール」としても活用されることが予想されるという。

 加えて藤本氏は,今後,ゲームに対する深い理解により,わざわざ“シリアス”と銘打たなくともゲームが真面目な存在であるという認識が一般的になること,そして「“ゲームのちから”を信じる人」の増加により「社会の仕組みや活動を支える要素」としてのゲームが登場することを期待したいとして,基調講演を終えた。

オランダ王国大使館 ライテ・ドウマ氏
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 続いてオランダ王国大使館のライテ・ドウマ氏が,特別講演「オランダのゲーム企業」を行った。ドウマ氏によると,オランダは地理的に欧州の中心に位置しており,物流面で有利なため,欧州経済では重要な地域になっているという。

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 そんなオランダには450社以上に及ぶゲーム企業が存在する。たとえば3月2日に発売予定のPlayStation 4用ソフト「Horizon Zero Dawn」を開発したGuerrilla Gamesもその一つである。

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 ドウマ氏は,そうしたオランダのゲーム企業のうち,44%の会社と49%の職種がシリアスゲームに関わるものであるというデータを示すとともに,手術のトレーニングができる医師向けのゲームや,脳の活性化を図るための認知症患者向けのゲームを紹介。また,オランダの全市長が意思決定の訓練をするために利用したという「Mayor Game」も紹介された。

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 オランダ王国大使館において,ドウマ氏はこうしたオランダのシリアスゲームを世界各国に広めるべく取り組んでいるという。ただ,シリアスゲームの対象となるのが医療関係だったり,経済関連だったりとさまざまなため,統一したフォーマットを作るのが難しいこと,開発しているのが小規模の企業であるケースが多く手が回らないこと,国ごとの文化の差によりカルチャライズやローカライズが難しいことなどを挙げ,日本で展開するにはまだまだ課題が多い現状を明かした。

 そうした課題を乗り越え,オランダのシリアスゲームを日本で普及させるべく,オランダ王国大使館としては,「チャンスのある企業の支援」と「カルチャライズやローカライズに対する研究の促進」,そして「本サミットのような認知を高めるイベントの開催」を行っていくという。最後にドウマ氏は,「東京ゲームショウ2017にもオランダブースを出展しますので,皆さんぜひ立ち寄ってください」と聴講者に呼びかけ,講演を締めくくった。

東京ゲームショウ2016のオランダブースの様子
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