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実況配信時代に向けたデータセンター向けビデオアクセラレータカード「Alveo MA35D」をAMDが発表
耳慣れない製品名という人がほとんどだろうが,Alveoシリーズは,2022年にAMDが買収したXilinxが展開していたアクセラレータ製品で,買収後はAMDが引き継いでいる。直接ゲーマーが購入するような製品ではまったくないが,実はゲーム配信にも関わるものなので,簡単に紹介したい。
そもそもXilinxは,「Spartan」シリーズに代表されるFPGA製品で有名な半導体メーカーで,データセンター向けアクセラレータも以前から手がけていた。製品のバリエーションは幅広く,ネットワーク処理用アクセラレータや,FPGAと独自のAIエンジンを組み合わせたAIアクセラレータ,さらに動画処理向けアクセラレータなどがある。
今回のAlveo MA35Dは,ライブビデオストリーミング処理に特化したアクセラレータカードだ。AMDによると,インターネットのライブビデオストリーミングは,スポーツ中継のような「1対多」のサービスから,ゲームの実況中継に代表される「多対多」へと移りつつあるという。
多対多のライブストリーミングは,視聴者と配信者がコミュニケーションを取る形が主流なので,ストリーミングには映像品質だけでなく,低いレイテンシが求められるといった特徴があるそうだ。これは,配信をよく見るゲーマーならイメージしやすいだろう。
Alveo MA35Dは,そうしたライブビデオストリーミングに向けたアクセラレータカードだ。具体的には,5nmプロセスで製造される新型のビデオプロセッシングユニットを2基搭載することで,1920×1080ドットのフルHDビデオなら最大32チャンネル分を同時にトランスコードできるそうだ。ちなみに,前世代にあたる「Alveo U30」は,16チャンネルなので倍増したわけである。
また,4K動画を約8msの遅延でトランスコードできる低レイテンシも特徴だと,AMDはアピールしていた。
カード上に2基搭載されているビデオプロセッシングユニットには,エンコーダやデコーダ,ビデオ映像の品質を一定に保つQoE(※Quality of Experienceの略で,ここでは映像品質を意味する)エンジンといったコンポーネントに加えて,22 TOPSの性能を持つ独自AIプロセッサが搭載されている。このAIプロセッサは,ビットレートを低減しつつビデオ品質を向上させる処理に利用されているそうだ。
ちなみにAMDによると,Alveo MA35DにおけるAI処理はチップ内部で利用されていて,外部の開発者が独自のAI処理に用いるといったことは想定していないとのこと。
NVIDIAは,2023年3月に動画のAI処理アクセラレータ「NVIDIA L4」を発表しているが,NVIDIAのアクセラレータはAIを主要な機能に位置づけている。それに対してAlveo MA35Dは,動画をエンコードするための道具としてAIを内部でのみ使用するというあたりから,狙いの違いが見えるだろう。
ちなみに,AI処理を応用した動画エンコードの新機能「Content Adaptive Machine Learning」(CAML)が,Radeon RX 6000シリーズ以降向けに「AMD Software 23.2.1」で実装されたのだが,これはXilinxが研究していた技術を応用したものだと,AMDは明らかにしている。Alveo MA35DにおけるAIエンジンの利用は,RadeonにおけるCAMLのようなものと考えると分かりやすいかもしれない。
Alveo MA35Dは,ゲーマーに直接扱う製品ではないものの,「プレイ動画の配信がより快適になったな」と感じたとき,その裏側にこうした製品が活躍しているのだと思い出してほしい。
AMD XilinxのAlveo製品情報ページ
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