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Access Accepted第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影
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印刷2021/11/29 10:30

業界動向

Access Accepted第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影

画像集#005のサムネイル/Access Accepted第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影

 Activision Blizzardがカリフォルニア州政府から,セクシャルハラスメントが常習的に行われていたことを含む同社の労働環境について告訴された件では,これまでBlizzard Entertainment側の問題が多く取り上げられてきたが,最近ではActivision側にも過去に事件をもみ消したという疑惑が浮上している。これまで30年にわたってActivisionを率いてきたCEOのボビー・コティック氏も,いよいよ足元の土台がぐらつき始めているようだ。


まさに雪嵐の中を進むBlizzardの社内改革


 今年の7月末に,カリフォルニア州の政府機関である公正雇用住宅局(California Department of Fair Employment and Housing,以下DFEH)が,Activision Blizzardを相手取ってセクシャルハラスメントに関する訴訟を起こしたことは,2021年度のゲーム業界における最大のトピックと言っても良いだろう。片翼を担うBlizzard Entertainmentの「World of Warcraft」を中心にする開発部門において,複数の女性従業員に対して常習的にハラスメント行為が行われていたり,それに起因する自殺者までが出ていたという一連の疑惑だ。
 それにも関わらず,幹部や人事部はそれらの訴えをすべて内部で処理してしまうことで,長年にわたって問題を見過ごしてきたということ,さらに女性には均等なプロモーションの機会が認められないといった労働環境が問題視されていることは,「第693回:州政府機関から告訴されたActivision Blizzard」記事リンク)で詳しくお伝えしたとおりだ。

就業放棄などで上層部への突き上げも行われているActivision Blizzard。30年来のCEOであるボビー・コティック氏辞任の機運も日増しに高まっている。画像はABK Workers Alliance公式ツイッター(外部リンク)より。ABKはActivision Blizzardにモバイルゲーム部門のKing.comのイニシャルを足したものだ
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 DFEHが調査に乗り出したのは2018年10月のことであり,その間にもBlizzard Entertainmentの初代CEOであるマイク・モーヘイム(Mike Morhaime)氏ほか,同社を長年にわたって支えてきたベテランメンバーはほぼ退社している。彼らの多くがこうしたセクハラ問題を幹部として見過ごしてきたことに,他の部門の開発者やファンたちは憤慨し,“ウォークアウト”(Walk Out)と呼ばれる就業放棄デモや,同社のゲームプレイをボイコットする運動が相次いで起こった。問題発覚後にActivision Blizzardの株は,その3分の1ほどが吹き飛んでしまっているような状況だ。

 8月3日には,政府の調査開始と同じ2018年10月から2代目CEOに就任していたJ・アレン・ブラック(J. Allen Brack)氏も退社するなど,州政府による告訴が明るみに出てから,20人ほどの幹部が同社から去り,さらに20人ほどが報酬削減や強制無給休暇などの処分を受けている。これと並行してActivision Blizzardは現在,人事部とは別にABK Ethics & Compliance Departmentという部署を発足させて内部調査を行うだけでなく,EMEA(ヨーロッパ/中東/アフリカ)やAPAC(アジア太平洋)などの支部でも実態調査を開始する構えを打ち出し,社内改革にも乗り出している。

 ブラック氏の退社の際には,2021年1月に開発部門副社長に就任していた,社歴20年のメンバーであるジェン・オニール(Jen O’Neal)氏と,2019年にXbox Game Studiosから移籍したばかりのプラットフォーム&テクノロジー部門のエグゼクティブ副社長マイク・イバラ(Mike Ybarra)氏による二頭経営が行われることがアナウンスされていたものの,結局オニール氏は11月初めに,年内にも退社することを明らかにした。

3代目CEOとしてBlizzard Entertainmentの共同運営を任されたばかりのジェン・オニール氏(左)と,マイク・イバラ氏だが,オニール氏は離職し,同社から離れることを表明している
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 オニール氏は公式サイトのメッセージ(関連リンク)で,この数か月にわたってBlizzard Entertainmentの経営体制をイバラ氏とともに立て直そうと奔走する一方,「個人的なレベルでは,これまで社内の人々の話を聞いて,彼らの勇気と信念に触発され,私は最も意味のある変化を生み出すために個人として何ができるかについて考えてきました」と綴っており,今後はゲーム業界における女性の地位向上を担う活動を行っていくという。
 その文面からは,どこか自分が女性幹部であることを利用されるのを嫌っての決断であるかのような印象を受けるが,事実オニール氏は,Activisionでスタートさせた彼女の初期のキャリアにおいて,セクハラを受けた経験があることを公に語り始めているなど,現体制に反旗を翻しているようだ。


ボビー・コティック氏の辞職機運も高まりつつある


 これまで,こうしたActivision Blizzardの数々のセクシュアルハラスメント疑惑や労働環境にまつわる状況は,あくまでBlizzard Entertainment側の問題であると,ことさらに強調されてきたが,ここに来て問題はさらに拡大しそうだ。

 アメリカ時間の11月16日,The Wall Street Journalは,ActivisionのCEOボビー・コティック(Bobby Kotick)氏がセクハラ疑惑を何年も前から知っていたという内容の記事(関連リンク)を掲載し,2016年から2017年にかけて同社傘下のSledgehammer Gamesで発生したとされるレイプ事件を,ボビー・コティック氏が握りつぶしたと報じた。

もみ消したはずの過去の事件が浮上するなど,コティック氏にとっては大きなダメージにもなり得るウォール・ストリート・ジャーナル英語版の当該記事(関連リンク)表紙より
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 同記事によると,「コール オブ デューティ ヴァンガード」をリリースしたばかりのSledgehammer Gamesの女性従業員が,社内のイベントで上司である男性からアルコール飲料を大量に飲むことを強要された上でレイプされ,それを人事部に話しても具体的な措置は取られなかったという。女性が雇った弁護士がコティック氏に直接メールし,結局その件については何らかの和解がなされたが,コティック氏はそのことを他の取締役会のメンバーには全く伝えていなかったというのだ。

 以前からBlizzard Entertainmentがカリフォルニア州政府から調査を受けていたことも含め,こうした案件は取締役員にも知らされず,それゆえに株主たちにも労働環境の向上を目に見える形で提示してこなかったことが,経営者の在り方として問題視されていた。
 つまり,こうした数々の事件が上層部によって黙殺され,加害者は何の懲戒処分もなされてこなかったのが,さらにそのようなセクハラ行為の常習化を助長する「企業文化」に発展していったというのが,残された従業員たちの主張である。

 年俸約180億円(1億7500万ドル)というコティック氏は,1991年,自身が28歳の時に経営難に陥っていたActivisionの株式25%を掌握し,以来30年にわたって経営に手腕を発揮しつつ,「Tony Hawk’s Pro Skater」や「コール・オブ・デューティ」シリーズの長寿ヒット,そしてBlizzard EntertainmentやKing.comの買収などで,同社を北米最大手のサードパーティへと成長させてきた。
 しかし,以前から個人所有のジェット機のフライトアテンダントがパイロットによるセクハラを訴えるとフライトアテンダントのほうを解雇したり,企業幹部を電話で怒鳴りつけて恐喝したりといった悪いイメージが取り沙汰されることもあった。

 コティック氏は,すでに州政府による告訴以前から,本年度の年俸を大幅カットしていることを発表し,最近では「辞任もあり得る」という発言をし始めているが,上記したウォール・ストリート・ジャーナルの当該記事で「他の取締役員らがコティック氏らの年内までの辞任を求める構え」という文面に反論し,役員会の名義で「我々が社内改革目標を達成する上での,コティック氏のリーダーシップとコミットメントを評価している」というプレスリリースを発行している。
 コティック氏自身の行く末とは別に,無難に送り出した「コール・オブ・デューティ: ヴァンガード」以降の作品,特にBlizzard Entertainmentの新作では開発遅延もあり,その労働環境の改善と安定は急務であるのは間違いない。

WSJの記事への見解として,取締役会ではコティック氏への退任要求はしていないという趣旨のプレスリリースを発行。今後は,株主や投資家の動きとして裁判の成り行きにも関わってくるだろう
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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