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話題のソニー製モニターヘッドフォン「MDR-MV1」をゲームで使うとどうなるのか? その実力を検証してみた[レビュー]
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印刷2023/10/21 12:00

レビュー

話題のモニターヘッドフォンをゲームで使うとどうなるのか?

ソニー MDR-MV1

Text by 榎本 涼

 今回はいつもと趣向を変えて,マイクを持たない純粋なヘッドフォンであるソニーのピュアアナログヘッドフォン「MDR-MV1」を取り上げたい。

MDR-MV1
メーカー:ソニー
税込直販価格:5万9400円
画像集 No.002のサムネイル画像 / 話題のソニー製モニターヘッドフォン「MDR-MV1」をゲームで使うとどうなるのか? その実力を検証してみた[レビュー]

 純粋なヘッドフォンとしては比較的高価格帯の製品ではあるが,ソニーが「本気で作った」というモニターヘッドフォンを,ゲームで使用するとどのような体験が得られるのか。じっくり見ていこう。

製品ボックスの同梱物。上側がヘッドフォン本体で,下が左が6.3mm to 3.5mmミニピン変換アダプタ,下側右がヘッドフォン接続ケーブ。最近のソニーらしく,梱包には一切プラスチックが使われておらず,すべて紙製である。
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ゲーム用途のヘッドセットにおけるトレンド


 MDR-MV1は,ヘッドフォンの中でも音楽や効果音の制作に適した「モニターヘッドフォン」だ。ここ最近掲載した筆者担当のレビューや広告企画記事で,モニターヘッドフォンをベースに開発されたヘッドセットをいくつかレビューしたのを覚えている読者もいるだろう。

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 2月17日に発売されたオーディオテクニカのストリーミングヘッドセット「ATH-M50xSTS」は,ゲーム実況を含む配信用途を想定したヘッドセットだ。同社のプロ向けモニターヘッドフォンに,同じく同社製コンデンサマイクをベースにしたマイクを組み合わせたもので,配信音声の品質を上げるのに役立つ。その実力を詳しく見ていきたい。

[2023/02/17 12:00]
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 今回は,ドイツの名門オーディオメーカーであるbeyerdynamicが開発したゲーマー向けのピュアアナログヘッドセット「MMX 300」を取り上げよう。世界的に「ヘッドフォン御三家」の一角に数えられる同社が手がけたゲーマー向けヘッドセットは,どのような製品なのだろうか。

[2023/06/09 12:00]

 それらの製品は,モニターヘッドフォンをベースとした物だが,MDR-MV1は正真正銘のモニターヘッドフォンだ。つまりマイクはない。ボイスチャットを行う場合は,別途マイクを用意する必要がある。本機と合わせてプロ用マイクを使用すれば,「配信映え」するのではないだろうか。
 そんなMDR-MV1について見ていく前に,最近,筆者が感じたトレンドについても少し触れておこう。いつもは書くことが多すぎて,なかなか触れることができないのだ。

 さて,今どきのゲーマー向けヘッドセットは,ざっくりと以下のように分類できると思う。

  • ゲーマー向けヘッドセット由来
  • リスニングヘッドフォン由来
  • モニターヘッドフォン由来

 あくまで傾向なので,すべてのヘッドセットがどれかに当てはまるとは限らないが,多数のヘッドセットは,3つのいずれかに属しているので,覚えておくと理解の助けになる。

 まず,ゲーマー向けだが,筆者が4Gamerでレビューを始めた当時は,まさに玉石混淆。方向性もさまざまで,分類しにくかったものだが,最近はおおむね低弱高強の特性に落ち着きつつあるようだ。どのくらい低域を抑えて高域を聴かせるかが腕と個性の見せ所で,製品やメーカーの解釈を垣間見ることができる。

 次のリスニングヘッドフォンだが,簡単に言うと,一般消費者向けのオーディオリスニング用ヘッドフォンのことだ。ゲーマー向け由来のヘッドセットとは異なり,どちらかと言えば低周波数帯と高周波数帯をしっかり再生できる,広い周波数特性を有している。場合によっては,低周波数帯と高周波数帯を強調したりもするので,製品やメーカーごとに異なった「色」がつくことが多い。
 なぜこのようなアレンジを施すのかと言えば,音楽を気持ちよく聞くためだ。音を楽しむことが目的なので,傾向としては広い周波数特性に加え,強いドンシャリ特性になっていることも多い。

モニターヘッドフォンの一例,オーディオテクニカ製の「ATH-M50x」
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 最後に,最近のゲーマー向けヘッドセットで取り入れられ始めたモニターヘッドフォンだが,こちらは元々,音楽や効果音の制作時に使用するもので,スタジオには必ずいくつか用意されている。録音時のモニターに使われるものは,密閉式でないとダメだが,録音時のモニター以外の用途で使用するヘッドフォンは,開放式や半開放式のものも数多く存在する。
 モニターヘッドフォンに求められる性質は,気持ちよく聞こえ音を楽しむことが優先されるリスニング用途のヘッドフォンと真逆だ。「なるべく正確に音を捉えて,聞き取ったり聞き分けたりするためのヘッドフォン」なので,一般的に「色」は付かないほうがいいとされる。色を付けず,独自の強調などもなるべく行わず,完全に素ではないものの,ひたすら素に近い音響特性を再現するのがモニターヘッドフォンだ。そのため,周波数特性はゲーマー向けとリスニングの中間くらいで,無理に低域や高域を持ち上げたりカットしたりしない。
 こうしたモニターヘッドフォンの方向性が,「音を楽しむ」のではなく,勝つために「音を捉える」「音を聞き分ける,聞き取る」必要があるゲームにも向いていると判断されたのだろうか。昨今,モニターヘッドフォンベースのゲーマー向けヘッドセットがいくつも登場したのは,こうしたトレンドが背景にあるわけだ。

 そしてMDR-MV1だが,「MDR-CD900ST」といったモニターヘッドフォンの超定番モデルをラインナップする,ソニーの本物のモニターヘッドフォンである。モニターヘッドフォン製品であることを示す「MDR」の名前を冠するのも,その表れである。ゲーム用途のことなどもちろん考慮されておらず,実勢価格も,最近どんどん高価格化が進むゲーマー向けヘッドセットより高額だ(とはいえ,今どきのヘッドフォンの中ではミドルクラスだが)。
 そんなMDR-MV1を,ゲーム用途で使用したらどうなるか,が今回のテーマだ。それでは実機を見ていこう。


堅牢かつ軽量でお手本のような作りのモニターヘッドフォン


 MDR-MV1は開放型ヘッドフォンだ。簡単に言えばガンガン音漏れが生じるタイプのヘッドフォンである。
 艶消し黒色を基調とした飾り気の少ない外観で,いかにも「モニターヘッドフォンです」といったデザインだ。エンクロージャは,実測で約110×85×45mm程度のサイズで,縦に少しゆとりがある。

MDR-MV1
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 開放型なので,イヤーキャップには多数の空気孔があり,外周にはぐるっとこれまた多数のスリットが設けられている。これらの孔は,軽量化にも寄与しているようだ。

マイクがない分,実測重量はケーブルなしで約220gと,かなり軽い。普通のヘッドフォンと比べても十分軽い部類だ
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 イヤーパッドは,厚みが実測約20mmくらいあり,外周で引っかけるタイプの着脱式だ。低反発ウレタンフォームを覆っている素材は,製品情報ページによると「スエード調人工皮革」だそうだ。肌触りがいいのでスポーツ系の素材かと思ったが,違っていた。
 スピーカーネット部分は,薄いストッキング状の布である。

イヤーパッドの厚みは標準的
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 イヤーパッドを外すと,スピーカーグリルに覆われたスピーカードライバーが現れる。ドライバーユニットは製品情報ページによると標準的な40mm口径で,公称の再生周波数帯域は5Hzから80kHzと非常に広い。パッケージにはハイレゾのロゴが掲載されているが,この通りの周波数特性なら,160kHzのサンプルレートまで再生するから確かに「ハイレゾ対応」だと言えるだろう。

スピーカーグリルは白色で,その外周も黒色のグリルで覆われていた
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 興味深いのは,スピーカー取り付け部の傾斜がわずかで,ほとんどフラットに近い点だ。製品情報ページには,「360 Reality Audio」のロゴマークが掲載されているので,その絡みかもしれない。
 360 Reality Audioとは,ソニー独自の空間オーディオソリューションで,MDR-MV1もこれへの対応を謳っている。360 Reality Audiによるサラウンド再生時に,正確な音場再現を行うため,あえてあまり傾斜をつけていないのかもしれない。
 ちなみに製品情報ページによると,開放型なのは「より正確な空間オーディオの音場再現を行うため」だそうだ。

 本機は360 Reality Audioの機能として,スマートフォンアプリ「360 Spatial Sound Personalizer」を使ってユーザーの耳の形を撮影し,特性を解析して音場を最適化することもできる。ただ,これらによる最適化機能は,今のところ対応している音楽・映像アプリでの使用に限定されているので,本稿では割愛する。

 話を本体に戻そう。ヘッドバンドとエンクロージャをつなぐアーム部分は,プラスチック製の両端二点留めで,接合部には青地に銀色で誇らしげに「Professional」と銘打たれている。
 スライダーも艶消し黒色に塗装されており,金属製と思しき表面に銀色で10個の目盛が印刷されていた。ヘッドバンドを伸ばすとクリック感があり,軽い力で10段階に長さを変えられる。

ヘッドバンドのアームを伸び縮みさせた様子
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 エンクロージャ部分は,前方には目視で約90度,後方にも約30度ほど回転する。

エンクロージャは前方向(写真では奥側)に90度回転して,持ち運びや収納がしやすい開きになる
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 ヘッドバンドは,両端プラスチック部分のL/R表記以外すべて艶消し黒色で,非常にミニマル。ヘッドバンドの幅は実測約43mmで,カバーは合皮素材と思われる。
 ヘッドバンド内側は,頭頂部にクッションを貼り付けており,一番分厚い頭頂部で厚みは実測約15mm程度。特別分厚くも薄くもない。

ミニマルな見た目のヘッドバンド。とくにロゴもない
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ヘッドバンドの内側にはクッションが貼り付けられている
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 ヘッドバンドの根元にある「L/R」の印刷は,Lが青地に白い文字,Rが赤地に白い文字となっていて,通常のヘッドフォンより見分けやすい。仕事で使う前提の製品だから,視認性を高めるために敢えて目立つよう色分けされているのだろう。

左右の区別が付けやすい「L/R」のマーク
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接続ケーブルをヘッドフォン本体に接続したところ
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 着脱可能な付属のケーブルは,金属端子以外黒色で,実測は約246cmと長い。ケーブルも太く,合成繊維のような素材でシールドされていて,直径は実測4mmくらいある。
 接続端子は,ヘッドフォン側が4極3.5mmミニピン端子で,反対側が3極6.3mm標準端子だ。ヘッドフォンに接続する側は,滑り止め加工された金属の端子部分をネジのように回して取り付ける仕組みになっている。4Gamerでのヘッドセットレビューを担当して長いが,この接続方式は初めて見たかもしれない。これならアクシデントでケーブルが抜けることはまずないので,好ましい。
 6.3mm端子も端子部分に同じ滑り止め加工されていて,Sonyのロゴが印刷されている。接続部分はどちらも金メッキ加工されている。

約2.5mの長さがある布巻ケーブル(左)。ヘッドフォン側の3.5mmミニピン端子は,ネジのように回して取り付ける仕組みだ(右)
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付属の6.3mm→3.5mm変換ケーブル
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 製品ボックスには,端子部を除いた長さが実測約12cmの3極6.3mm標準端子から3極3.5mmミニピン端子の変換ケーブルが付属している。通常のヘッドフォンでは,3.5mmから6.3mmへの変換アダプタが付属しているものだが,6.3mmが主流の音楽・効果音制作環境で利用することを念頭に置いたモニターヘッドフォンだからか,このような仕様になっている。ゲーマーのほとんどは,変換ケーブルを利用することになるだろう。

MDR-MV1を首像に装着した状態
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 装着感だが,マイクがなく,通常のヘッドセット以上に軽量なのもあって,頭頂部も側圧の強さもストレスを感じない。それでいて,頭を振ってもよほどのことがない限りずれることはなかった。イヤーパッドも一般的な合皮素材より肌当たりがよく快適で,ある程度汗も吸収してくれる印象だ。長時間の装着も問題ないと思われる。
 さすがはモニターヘッドフォンの老舗ソニーの製品,と言ってよいだろう。

 MDR-MV1の主な仕様をまとめておこう。

●MDR-MV1の主なスペック
  • 基本仕様:アナログワイヤード接続,開放型エンクロージャ採用
  • 公称本体サイズ:未公開
  • 公称本体重量:約233g(ケーブル含まず)
  • 接続インタフェース:3極3.5mmミニピン端子(ヘッドフォン側),6.3mm標準端子(付属ケーブル側),3極3.5mmミニピン端子(変換ケーブル)
  • 搭載ボタン/スイッチ:なし
《ヘッドフォン部》
  • スピーカードライバー:50mmドライバー
  • 周波数特性:5Hz〜80kHz
  • インピーダンス:24Ω@1kHz
  • 出力音圧レベル:100dB/mW


中域がしっかり再生される,まさに「モニターヘッドフォン」の音


 ここまでの紹介を踏まえて,MDR-MV1をテストしていこう。
 MDR-MV1は,ピュアなアナログヘッドフォンでマイクはないので,ヘッドフォンのテストのみを行う。計測テストはいつもどおり,PCで行う。サウンド出力は,リファレンス機材となるデスクトップPCに組み込んだ「Sound Blaster ZxR」に,MDR-MV1をアナログ接続して計測をしている。
 テスト自体は,いつもどおり,ダミーヘッドによるヘッドフォン出力の周波数特性計測と試聴を行う。

 アナログヘッドセットで遅延はないので,出力遅延計測は行わず,周波数特性のみ計測する。具体的なテスト方法は「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるヘッドフォン出力テスト方法」で示しているので,そちらを参照してほしい。

ヘッドフォン出力品質テスト用のリファレンス波形
画像集 No.024のサムネイル画像 / 話題のソニー製モニターヘッドフォン「MDR-MV1」をゲームで使うとどうなるのか? その実力を検証してみた[レビュー]
 というわけで,MDR-MV1の出力周波数特性を見ていこう。ヘッドフォン出力時の周波数特性は,Waves製アナライザ「PAZ Analyzer」で計測したデータそのものと,計測データとリファレンス波形を1枚の画像に重ねたもので示す。本稿における音域の呼び方は以下のとおり。

  • 重低域:60Hz未満
  • 低域:60〜150Hzあたり
  • 中低域:150〜700Hzあたり
  • 中域:700Hz〜1.4kHzあたり
  • 中高域:1.4〜4kHzあたり
  • 高域:4〜8kHzあたり
  • 超高域:8kHzより上

 なお本製品は,イヤーパッドが一種類だけで,接続もアナログだけなので,計測結果はひとつになる。

MDR-MV1の出力特性。赤線がリファンレンス波形
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 グラフを見ると分かるが,非常に波形の線が滑らかなことに驚かされる。グラフがなめらかということは,周波数の小さな凸凹が少なく,音も滑らかだということだ。一方で,低域のピークは50〜125Hzくらい,高域のピークは6〜8kHzくらいだろうか。やや高域が強い低弱高強気味だが,特筆すべきは800Hzくらいが底であろう中域と低域,高域の差が少ないことだ。言い換えると,中域がしっかり再生できることが期待される。
 中域を落としてドンシャリにすれば,音楽を気持ちよく聞ける。しかし,それだと音が密集している中域の音が引っ込んで,相対的に若干聞き取りにくくなってしまう。本機はモニターヘッドフォンであり,全周波数帯域の音をきちんと聞き取るためのヘッドフォンなので,中域の音もしっかり聞き取れるようこういう特性になっているものと思われる。

 という計測結果を踏まえて,試聴に移ろう。まずはステレオ音楽から。
 低域から高域まで,周波数帯域バランスの良さは間違いなくトップクラスだ。低域は,ピークが50〜125Hzくらいと広範囲だからか,思った以上にしっかり存在しており,出過ぎる感じはしないが,リッチに聞こえる。ベースラインの音程が変わっても,出たり引っ込んだりせず均等に再生できていた。
 中域も,やはりしっかりと再生されて,音情報の密度は高い。高域は6〜8kHzピークということもあり,イヤな感じで前に出てくることなく,必要十分に聞こえている。
 一方で,開放型らしく外に向かって盛大に音漏れするか……と思ったが,そうでもない。聞こえ方としては半開放型くらいのイメージだ。細かいことだが,素速い音量変化も捉えやすかった。

 次にサラウンドゲームの試聴だが,MDR-MV1はアナログヘッドフォンなので,別途バーチャルサラウンドプロセッサを用意する必要がある。今回のサラウンド試聴も,最近のレビューと同じくEPOSのUSBサウンドデバイス「GSX 1000 2nd Edition」(以下,GSX 1000 2nd)の7.1chモードを使用した。GSX 1000 2nd側の設定は,以下のとおり。

  • EQプリセット:ニュートラル
  • サウンドの指向性:ニュートラル
  • 残響レベル:無効

 GSX 1000 2ndを選択した理由は,まず最新世代のバーチャルサラウンドプロセッサを利用できる優秀なサウンドデバイスのひとつであること。それに加えて,プレイ中のゲームから画面を切り替えたり,専用の設定ソフトにアクセスしたりすることなく,機器上で設定変更ができるので,テストに集中できるからという理由もある。

 それでは「Fallout 4」から始めよう。
 まず,一聴して「いつもより音の情報量が多い!」と感じる。なんだろう。サラウンドでいろいろな方向から聞こえる効果音や環境音が耳に痛くなく,それでいてたくさん聞き取れる印象だ。ヘリの前で回るように動くと,動くたびに音が変化するし,ヘリに乗って移動しているときの音は,情報量がいつもより多いと感じるのだ。元々このシーンは四方八方から音が聞こえてくるのだが,MDR-MV1では,それが全部聞き取れるし,聞き分けられる。中域が強いだけでなく,高域も必要十分存在するおかげだろう。サラウンド定位も優秀だ。
 そして,やはり中域がしっかり再生されているので,とくにヘリで移動中の無線ボイスが,いつもより大きくはっきり聞こえる。低域については,最近のゲーマー向けヘッドセットのように軽い感じではなく,ヘリの離陸時や着陸時の金属的な効果音も,結構しっかりと前に出てくる。ただ,重低域が聞こえる低音強調型のヘッドセットと異なり,要所要所で本来あるべき音量で再生されているイメージだ。音量変化への追従性が高いからというのもあるだろう。いかにも効果音制作にも使われるモニターヘッドフォンらしい鳴り方と言えようか。

 次に「Project CARS 2」を試す。こちらも音の情報量が増し増しに聞こえる。時折飛んでくる石つぶてが車体に当たった音を捉えたり,降雨時に聞こえる水しぶきの効果音や,四方から聞こえるエンジン音の変化などを,意識しなくても,いつも以上に聞き取ることができた。
 通常は意識と聞かないと拾えない「サー」というホワイトノイズに近い水しぶきの音や,甲高い敵車のエンジン音の音程が高くなったり低くなったりするのも,意識せずに聞こえてくるのには恐れ入った。これまでレビューで扱ったヘッドセットでは,あまり意識して聞けていなかった音が聞き取れたというわけだ。
 サラウンド定位の正確さが求められる前方や後方にいる敵車のエンジン音も,聞き分けやすい。ワイパー音や縁石に乗り上げた音は,「低域が強いかもな」と思ったが,そういうこともない。やり過ぎでも足りなくもない,あるべき適切な音量で再生されている印象だ。音の情報量が多くて,高域がキツく聞こえることも多いProject CARS 2だが,MDR-MV1は,耳に痛いとか不快に聞こえるということもない。実に快適に,さまざまな音を拾っていくことができる。

画像集 No.026のサムネイル画像 / 話題のソニー製モニターヘッドフォン「MDR-MV1」をゲームで使うとどうなるのか? その実力を検証してみた[レビュー]
 続いてPC版「MONSTER HUNTER: WORLD」(以下,MHW)で村の中を歩き回って,効果音や環境音の変化を確認した。
 まず感じたのは,波の音や風の音が相対的に大きくはっきり聞こえること。ダイナミックレンジはもちろんワイドで,いつもと変わらない。波や風の重低域や高域が強いのではなく,おそらく,これらの音の中域成分がしっかり再生されるからだろう。床の素材が変わると足音も変わるのだが,変わったのが非常に把握しやすい。床の素材によって,軽い足音になったり,重い足音になったりするのだが,これがはっきり聞き取れる。これは低域もしっかり再生され,音量変化が素速いから得られる効果だと思う。低域が軽くて全体的に控えめな,最近のゲーマー向けヘッドセットでは味わえない感覚だ。
 そして,何より効果音と環境音の密度がすごい。こんなにいろいろ鳴っていたのか,と今さらながら驚かされる。いや実際には,他のヘッドセットでも聞こえているのだ。聞こえているのだが,意識して聞き取りに行かないとなかなか聞こえてこない音が,MDR-MV1では,とくに意識しなくてもいろいろ勝手に耳に入ってくるような感覚だ。水車の前で回ってみたりすると,サラウンド定位の正確さと動いた時の音の変化が,いつも以上によく分かる。ソニーもサラウンドモニター用途推しで,MDR-MV1を「サラウンド視聴に向いている」とアピールしているだけのことはある。GSX 1000 2ndのように高音質なサラウンドプロセッサと組み合わせれば,ゲーム用途のサラウンド視聴にも非常に向いているだろう。

 PlayStation 4版MHWもプレイしてみた。ゲーム機本体よりも高価なヘッドフォンでプレイすること自体あまりないし,マイクをどう接続するかの問題もあるが(※アナログのスプリッタが簡単だろうが,音質は変わってしまう)。
 今回は,純正ゲームパッドであるDUALSHOCK 4へのアナログ接続で,ゲーム自体がサポートしている3Dサウンドを有効にしたうえで,ダイナミックレンジを「ワイド」に設定してプレイした。聞こえかたは,PC版と結構異なる。おそらくD/Aコンバータやプリアンプの違いが,素直に出ているのだと思われ,PC版のようには中域が持ち上がってこない。つまり,DUALSHOCK 4のアナログ出力は,結構ドンシャリなのだと推測される。
 ゲームパッド側の特性によるものか,PC版ではうるさいくらいの情報量だったが,PS4版は「いつもより音がいいな」くらいで,風や波の音もそこまで大きくならない。とはいえ足音の違いや,少し移動したときに聞こえる音の定位の変化はやはり秀逸で,音質向上という意味で,PS4で通常得られない体験ができるのは確かだ。
 ちなみにPlayStation 5であれば,システムレベルでサラウンドサウンド出力に対応しているので,なおさら体験は向上するはずだ。ゲーム機でのプレイ用にMDR-MV1を購入する人はそういないだろうが,PCなどでのゲームプレイ用に購入した本機を,PS5/4でも使用するのはアリだと思う。

 最後に一点。筆者は以前,同じメーカーの低価格(1万円台),中価格(5万円台),高価格(15万円台)のモニターヘッドフォンを,同じ環境で同時に試聴したことがある。その結論が,すべてのモニターヘッドフォンに当てはまるとは思っていないが,多くのモニターヘッドフォンは,価格が高くなると中域の解像度が上がる,つまり中域がより強く再生される傾向にあると思う。下世話に言えば,「モニターヘッドフォンは,一般的に高いほど中域解像度が上がり,情報量が増える」ことが多いということだ。
 本機も,これまで4Gamerでレビューした製品としては,ダントツ(マイクなしで6万円弱)に高価な製品だが,中域の情報量の増え具合は尋常ではなく,筆者の経験則どおりになった。モニターヘッドフォンは低域と高域のバランスが基本的に良好な製品が多いものの,中域がどのくらい出てくるかは,製品(と価格)によって結構異なるということだ。その意味でMDR-MV1は,価格にふさわしい中域解像度を有していると思う。参考になれば幸いである。


ソニー本気のモニターヘッドフォンはゲームでも素晴らしい体験をもたらす


 今回,マイクなしのヘッドフォンなのに過去最高価格のヘッドフォンレビューとなったが,さすがにすごいの一言だ。とにかく中域を中心に音の密度が爆上がりするので,なにか別世界にいるような気分になる。
 MDR-MV1をゲームで使用する場合,ボイスチャット用に別途マイクを用意する必要があるし,もちろんサウンドデバイスもよいものを使用しないと,ヘッドフォン本来の実力を発揮できない。つまり,使う人を選ぶし予算もかかるが,それでも体験してみる価値は十分あると思う。買うまでは行かずとも,機会があれば試して見ることをお勧めする。

画像集 No.027のサムネイル画像 / 話題のソニー製モニターヘッドフォン「MDR-MV1」をゲームで使うとどうなるのか? その実力を検証してみた[レビュー]

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